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ハイエース光速2000光年の妄想 7

(2200文字くらい)
ハイエースは関門海峡に向かって亜光速空間を爆走している。
操縦しているシャアは、コーヒーの長いアルミ缶をときおり口にしながら安定したハンドルさばきを披露している。
長距離の航行を行う上で成功の鍵となるのは、何といっても交代する操縦士の腕前いかんにかかっている。
運悪く酷いのにあたると、ナビシートにただ座っているだけでどんどん消耗してゆく。じっとしているだけで命が削られてゆくのは、聞くところによると、ヒマラヤを始めとする8000m級の高所がそうであるらしいのだが、そんなところにわざわざ行かずとも同じ体験をすることが可能だ。
いっそ、自分がずっと操縦し続けた方がよっぽどマシなのであるが、どういう訳かそういう輩に限って、吾輩が操縦すると言って聞かないのである。
お願いだから操縦を止めてくれ。
いや、何もセンチュリーの運転手のような芸術的滑らかさを期待しているわけではない。しらんけど。
万年半クラですぐクラッチをぶっ壊すのとか、渋谷スクランブル交差点みたいなところでものすごいコーナリングをするのとか、先の見えないブラインドコーナーで決死の追い越しをするのとかの話なのだ。
お願いだから操縦を止めてくれ。
シャアの操縦は滑らか滑らか(なめらかすべらか)だ。
そうなのだ。
職人たるもの、クルマのタイヤとか人間の関節をも含めた各摺動部や応力のかかる部品の気持ちが分かって然るべきなのである。
バカみたいにネジを締めないと気が済まない奴に「ネジ山の気持ちを考えて締めろ」と言っても無駄なのは分かっている。
でもそれは、気持ちを踏みにじった経験がなければ永遠に理解できないものであることもまた事実である。

外の景色は単調だ。
亜光速空間から見えるそれは竹藪、照葉樹林、低山の連なりと言った代わり映えのしない、しかし仮にここで外に放り出されたら最後、ミヒャエル・エンデの「鏡の中の鏡」のホルのような境遇になることは必至である単調さだ。
久美子はすでにクーという寝息をたてている。
私は先ほどのブーとの戦闘に疲れはててはいたものの、気持ちの揚ぶりから目は冴えていた。
そして妄想するのだ。
危険な操縦とは何かということについて。

私の脳ミソは自動運転レベル3の能力を有している。
それを阻害するのは今まで書き記してきた通り・・・シャツをブリーフにINしないことであり、あるいはスギ花粉が悪さをするものであるのだが・・・もうひとつ重大な要因をここで書き記さねばならぬであろう。

それは、好みのお姉さまがナビシートに座ってしまったときである。

いや、これは失礼。
読者諸兄は海千山千であらせられるので、そんな些細なことなど露とも知らぬことであろう。
だがチェリーボーイ的に感受性の強い酒田藤四郎は一味も二味も違う。
違いの分かる男なのだ。
これが例えば久美子セブンティーセブンにおいては全く問題ない。
彼女は私のユング心理学におけるアニマ的存在であり、通常であれば自分自身の統治下にある故想定外の事象が起こりにくい。
同様にシャアも、仮に何か不適切な発言をしたとしても「なんでやねん」で済ませられることが殆どなのである。

だが異物である初対面のお姉さまは、そうは問屋が卸さない。

ついつい妄想を口にする。久美子が、とか。
興味の無いことを振られると顔に出る、とか。

そのような事態にならぬよう、常に気を配らねばならぬのだが、そうなれば私の脳ミソのクロック周波数は関西の60Hzからブッダの56億7千万Hzくらいにまで跳ね上がり、運転に割けるリソースが激減してしまうのである。

「運転お上手ですね」
「え、あ、あはは、そうですか。ちょっとドリドリとかしてみましょうか」
「ドリドリ?」
「あ、いや何でもないです」
「ご趣味は」
「いや、つまらない文章を書いたりなんかしちゃったり」
「すごーい!小説とか書くんですか」
「小説まではちょっと・・・」
「えー、気になる、どんなのですか」
「久美子という女性が」
「誰ですか?奥様ですか」
「あ、いや何と言うかその」
知らずに増してゆくスピードの先はT字であり、迫りくるガードレールの先は川である。
「きゃー、危ない、落ちる」
「うわあ、もうダメだ、一緒に死んでください」
「いやあーやめてー」

過去にこんな事例があった。
可愛らしいおねえちゃんを隣に乗せて、気持ちがフワフワしちゃった挙句、川にクルマを落とした奴を私は知っている。断じて私ではないのだが。
クルマはまるで、下流から川の中を遡ってきたようなごくごく自然な体勢で鎮座していたものの、圧倒的な水量により今まさに飲み込まれんとしていた。

そして私が目撃したその車両は・・・他でもないハイエースであったのだ。

最も危険な要因。それは女性である。

その時である。水曜スペシャルか。アラートが鳴り響く。
「緊急事態発生、緊急事態発生。マスター、膀胱にハルマゲドン接近中です。全解放まであと435秒、カウントを開始します」
久美子セブンティーセブンが眠りから覚めるなりそう叫んだ。
「ええー!もっと早くいってよお、カウントされるとあせるから止めてくれ。ところでシャアは大丈夫なん?」

「私の膀胱は鋼でできている」
「コーヒーそんなに飲んでて、なんで大丈夫なん!?」

   つづく

すみません。もう止めた方がいいっすかね・・・

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