ハイエース光速2000光年の妄想 6
(一話完結です。4100文字くらい)
「マスター、草深バスストップに停車することは星団法に抵触しますが本当によろしいのですか」
光速で航行中のハイエースに同乗しているレプリカントの久美子セブンティーセブンがそう告げる。
まるで井上ひさしの吉里吉里人に登場する「ベルゴサーティーン」のようなネーミングである彼女は、このハイエースの制御を司る優秀な美人助手という設定である。
「構わん。奴は400㏄のニンジャでバス停を二本もなぎ倒している男だ。どのみち星団法なぞ通用しない。このまま亜光速空間より離脱する」
あの男を、この大宇宙を光速で移動するハイエースでもってバス停というピンポイントで回収する超難関ミッションを成功に導くためには彼女の存在なくしてありえない。
「了解。俗世間空間へ移行します。草深バスストップの座標確認、誤差567㎲以内、ABS解除、左ウインカー点滅、側道に進路変更の後スーパーレイトブレーキン、5Gの衝撃が来ます。私が車体制御、マスターはブレーキを」
「分かってるさ」
トムムムムムムム。
「耐衝撃姿勢、3、2、1、踏んでください」
亜光速のタイムトンネル様の景色から一転、俗世間の見たくもない景色に切り替わる。
ギャギャギャギャギャギャ。
荷物満載のハイエースはタイヤからもうもうと白煙を上げ、左右にケツを振り出しそうになりながらも正確にバス停の脇に停車した。
いつものことながら気分は最悪だ。ゲロが出そうで頭が痛い。だがレプリカントの久美子セブンティーセブンはケロッとしたものだ。
「ゴム臭せえな」
「ブレーキが焦げた臭いも含まれます」
「ああ、それはそうと、あいつは・・・いるのか」
「一名確認しました。ただいま照合中です。少々お待ちを・・・データと一致しました。シャア様である確率は87.3%」
「ずいぶん低い確率だな」
「ウラシマ現象のため、加齢の補正を加えたことによる誤差が含まれます」
そうか。俺は長らく亜光速空間に身を委ねていた。それはつまり、時間が停止しているということだ。トップをねら、あ、いや、浦島太郎ほどではないにせよ、俺と、久美子以外の連中はずいぶんと年をとってしまっていることだろう。
俺はハイエースを降りた。タイヤから立ち上る白煙が目を蝕んだ。
「シャア、お前、なのか・・・」
黄色いニンジャにまたがり、数々の武勇伝を作り上げてきた男、黄色い彗星のニュータイプ、シャア。
「まいど!」
歳をとったなあ。俺は若いままなのに。
だが再会の歓びを分かち合っている時間はない。早くここを離脱しなければ密告者のタレコミにより、光速警備隊に追いかけ回されるとも限らない。
だが、現実は非情であった。
バス停の待合所は頑丈な鉄格子によって囲われており、俺と奴はその鉄壁によって遮られている!
「これは・・・南京錠だ」
鉄格子の向こうのシャアがうなずく。
「そうだ。どうやらこの鍵はバスの運転手が持っていて、バスの客でないと越境できない仕組みになっているらしい」
何と言うことだ。奴は目と鼻の先にいるのに、数千光年の彼方にいるかのようだ。
その時である。
白い光速巡行艇がこちらに近づいてくるのが確認できた。
「まずい、光速警備隊のクラウンだ。このままでは捕獲されてしまうぞ」
「貴様ら何やっとるかー!」
ごついセリフとは裏腹に、コミカルな声の主はマイケル・ホイ、あ、いや、日本語吹き替え版は広川太一郎氏であったのだが・・・つまり「アヒルの警備保障」とか「インベーダー作戦」の主人公であるミスターブー風の男が警棒をペシペシ言わせながら歩いてきた。
水色の制服に紺色の制帽、丸いメガネをかけて三ツ矢の階級章をこれ見よがしに披露している。だが中身は中肉中背の、さえないおっさんだ。
「煮るなり焼くなり二宮かずなりにしちゃうわよお」
もう一人運転席から出てきたのは太っちょの大男で、こちらはオネエだと一瞬にして判別できる。
「うわ、やべえのが来ちゃったよ。こりゃ捕獲される前になぶり殺しにあうパターンだ」
「藤四郎、何か工具あんだろ?この南京錠を破壊しろ」
「なあーにゴチャゴチャ言ってんだか何かしちゃったり何かしてんだらァ、大人しく捕まれってんだこの短足のゴリ」
ミスターブーが警棒を振り回しながら襲いかかってくると、俺は寸でのところで身をかわした。勢いあまったミスターブーは鉄格子にガッシャーンと激突すると、シャアはふところから得物を取り出し、鉄格子のすきまから奴のふとももにプスリと針を刺した。
「いたいっ鉄格子!いたいっ鉄格子!」
「フフフ、これが何かわかるかな」
「そ、それは地さがしどこ太だなっ」
地さがしどこ太・・・これは職人が現場で使うアイテムである。
仕上げられた内装壁紙へのダメージを最小限にしつつ、プラスターボード奥にある「地」を探すためのツール、と言えば聞こえはいいが、要するに細い針を壁に突き刺して、間柱や軽鉄の位置を探るものなのだ。
「どんだけ卑怯なのお~もう手加減しないわよ~」
俺はシャアにバッテリー式ディスクグラインダーを手渡すと、怒り狂って突進してくる奴らに向けてコーキングガンでシリコンを連射した。
ドシュドシュドシュドシュ。
ズルッドテ。
「どんだけツルツルー」
滑って転んで起き上がれずもがいている。
シリコンシーラントは風呂場などで防水シールに使われるものだ。浴槽と壁のすきまに埋まっている半透明のアレである。これが床に附着するともう滑るのなんのって!
「シャア、早く切断しろ」
ジャイーンガガガガ。
「まあ待て、もうすぐだ」
火花を散らせながらシャアはステンレス製の南京錠を切断している。
鉄格子の中から外に掛かっている南京錠を切るのは、すさまじくやりにくそうだ。だが最近のパワーツールは何でもかんでもバッテリー式で助かった。
何しろ今や冷蔵庫はもちろんのこと、電子レンジまでバッテリー化しているというではないか。
「もう絶対許さないしぃー」
もがきながら泳ぐようにしてオネエとブーがやってきた。
その時である。
「藤四郎、南京錠を破壊した。そちら側にゆくぞ」
ギー、ガシャン。
「時間かせぎをする」
俺はバッテリー式ブロワーで粉チョークの墨壺の粉を奴らに向かってブチまけた。白煙がもうもうと上がり、煙幕の効果絶大だ。
「がはげほごほげほごぼ」
「久美子、南京錠の切断が完了し、シャアを回収した。エンジン点火、ハイパーブースト装置エネルギー充填120%だ、急げ」
「120%は完全にオーバーレブです。時空に歪みが生じますがよろしいのですね」
「構わん。そうでないと超空間でクラウンに追いつかれる」
「座標はどちらに?」
「関門海峡だ」
「│了解《ラジャー》エネルギー充填60%、70%、空燃比最大濃度にまで上昇中。マスター、あと5秒で発進します。急いでください」
「ウキャキャ~待てこのネズミ共~」
「しつこい奴らだ、これでも食らえ」
俺はレーザー墨出し機の赤レーザーで目くらましをしてやった。
「ぎゃあ、どんだけ卑怯な手をつかいやがる」
「藤四郎、俺に操縦させろ」
シャアは操縦席に飛び乗った。
「シャア様、あなたは過去にR34GT-R,Vspecとのバトルにおいて昇天されていることをお忘れなく」
「あのベイサイドブルーのGT-Rかあ。久しぶりに会ったのに久美子、昔のことをいちいち覚えていやがる」
俺はスライドドアから荷物で満載の荷台に身をねじ込むと、助手席の久美子がカウントを始めた。
「3、2、1、システムオールグリーン。シャア様、準備ができました。床まで踏んでください。法定速度に達したところで亜光速空間に突入します」
「了解!オラいけえー」
ギャギャギャギャギャ。ガロロロロー。
ディーゼルターボエンジンが咆哮する。
「うわ」
がしゃんごろん。
荷台の荷物が荷崩れを起こして体がひっくり返って荷物に挟まった。
「イテテテテ」
ウ~~ウ~~
「止まらんかこのスカポンタン!ぐずぐずするな、ちりがみ交換!」
ブーが運転しているオネエの頭を警棒でひっぱたいているのが見える。
赤色回転灯を回しながらクラウンが迫る。
「ブーちゃん、ハイパーブースト装置をー、狙ってェーン」
チュンチュンチュン。
ミスターブーがクラウンから身を乗り出し、光線銃を撃ちまくってくる。
だが多くの場合、どれだけ乱射されようが不思議と主人公には当たらないものである。
「藤四郎、応戦しろ」
「マジかよ、人づかい荒いぞシャア」
俺は荷崩れしている荷台の内側からリアハッチを開けて、一寸四分の大突きノミを諸手に構えた。
「バカめ、死ねおりゃあ」
チュン、チュン。
ワシャーン、ワシャーン。
俺はルーク・スカイウォーカーのように光線銃のエネルギー弾をノミの裏の鏡面仕上げになっている部分で跳ね返し、クラウンのタイヤにヒットさせることに成功した。
「イヤーン、うそ」
ギュルルルルボカン。
クラウンはスピンしてひっくり返ったままアスファルトの上を滑っている。
「摩擦熱でからだが燃えるー」
「マスター、亜光速空間に入ります。急いでリアハッチを閉めてください」
「ちょっと待て、まだ心の準備が」
「何の準備やねん」
シャアは関西弁だ。
「ハイパーブースト120%充填完了、突入します」
ヒュイーン、ズドドドドドド。
「うええ、ゲロでる」
視界がブレる・・・時空が歪む・・・
ビュウオッッ
「キーッ、あの子達ったら亜光速空間に逃げちゃったわよお」
オネエが制服の襟を嚙んで涙がちょちょ切れている。
「なんてこったら、今度みつけたら百年目だぞ」
ドリフの爆発みたいになっているミスターブーが恨み顔でつぶやいた。
「ところでブー、あの子たちー、何であの鉄格子ー、脚立で乗り越えなかったのかしらー」
「・・・しるか!」
つづく
すみません。ひどい話でした。
高速道路のバス停に一般車両が停車することは道路交通法で原則禁止されております。危険ですので絶対にやめましょう。
これは酒田藤四郎の妄想であり、フィクションです。悪しからず。
見出し画像はみれのスクラップ様にお借りしました。
ありがとうございます。
