思考の構造・飛び石編② 『なんで分からない?』と思っていた私の話
なぜ「層」と「構造」を分けるのか
議論が噛み合わないとき、
よく起きているのは「論点の違い」ではなく、見ている地図(前提)と、切り出している構造が違うというズレです。
このページでは、
事例(実際に起きている会話)
それをどういう 地図・層・構造 で見ているか を対応づけて並べます。
まず対応関係を提示し、 「なるほど、そういうズレか」で一度理解を止める。
そのうえで、実際に説明しようとすると何が起きるかを後半で扱います。
層と構造の違い
① この図でやっていること
この図は、
実際に起きた出来事(現象)
それをどう処理しているかという層
どこで・どの仕方で処理が止まっているかという構造
この三つを同時に可視化するためのものです。
② 図の基本構造(共通の土台)
中央:共通の「現象」
【発言・出来事】
※ 具体例でも抽象例でもよい
(例:「多数決が正しいと言われた」「礼を要求された」など)
縦方向:層(下から上)
第1層|表層:言動・行動
第2層|中間層:動機・感情・役割意識
第3層|深層:思考の癖・認知パターン
第4層|基盤層:前提・価値観・発達特性
ここまでは、これまで扱ってきた「層の整理」。
多くの心理説明や対話論は、実はここで止まる。
③ 分岐を生むのは「層」ではなく「構造の位置」
同じ現象・同じ層を見ていても、
どこで処理を完結させるかによって、理解は分岐する。
【層内処理(部品で完結)】
すぐに評価・結論が出る
(正しい/間違い、失礼/妥当 など)表層〜中間層あたりで処理が止まる
評価そのものが「地面」になる
本人は「地図を見ている自覚がない」
👉 部品がそのまま地図になる
【構造視点(地図として見る)】
評価はいったん保留される
役割の固定/非対称な交換/前提のズレを見る
同じ層を見ているが、
「今ここで処理している自分」を一段引いて見ている
👉 部品を並べて地図にする
④ 同時進行が起きている位置
構造視点では、
発言
動き
前提
を同時に受信している。
最初に立ち上がるのは、
ラベルや言語ではなく輪郭だけのイメージ。
だから直感的に見えるが、決してランダムではない。
⑤ 層だけで見た場合/構造で見た場合
層だけで見る(縦方向)
表層:発言・態度
中間層:感情・理由づけ
深層/基盤:前提・世界観
→ 「深い/浅い」で分かった気になるが、
なぜそれが出てきたかはまだ見えていない。
構造で見る(横方向)
深さではなく、流れと作用を見る
発言は表層だが、同時に「出口」でもある
何を起こそうとしているかで読む
層 × 構造を重ねると
層=上下の断面
構造=横方向の関係(矢印)
同じ層配置でも、矢印が違えば意味は変わる
⑥ 図の外枠
構造とは、
「どの層で世界を見ているか」を
自覚している位置のこと。
※ 理解度や人間性の序列ではない。

事例【1】
Aという要素が出てきたとします。
相手(仮に山田さん)は、
「これはA´だろうか? それともA1だろうか?」
と、Aの性質やバリエーションを検討している。
一方で、こちらには
Aが出た瞬間に
「これはCに向かう」
という図式が立ち上がる。
なのでこちらの反応は、
「Bだよね?」
になる。
すると返ってくるのが、
「え? B??」
こちらは内心、
「いや、だから最初からBじゃん。何が分からないんだろう?」
となる。
【山田さん】
A ➔A′ / A1
(Aの中で検討)
【自分】
A ➔ C
↓ B
(Aは途中点)
自分:Aを「帰結へ向かう点」として扱う
私はAを見ていないわけではない。
ただ、Aは結論ではなく途中点として処理される。
Aを通過した結果として、
別の位置(C)が立ち上がっている。
しかし説明するとき、
その「通過」の工程を省いてBだけを出してしまう。
すると相手には、
「なぜいきなりそこに行くのか」が分からない。
事例【2】
この場面ではア´、
別の場面ではイ②、
相手(山田さん)はその都度、態度を切り替えている。
こちらから見ると、
「今回はア´だね」
「いや、ここではイ②だね」
と、きちんと状況対応しているようにも見える。
でも、見ていて引っかかる。
——いや、
アだろうとイだろうと、
その前に、
その人、同じZを持ったまま動いてない?
場面ごとに態度は違って見えるけれど、
どれも同じ前提の上で出てきている。
こちらとしては、
「今はアかイか、の話じゃなくて、
まずZに気づかないと意味なくない?」
という感覚になる。
でもその指摘をすると、
「いや、この場面ではアの話をしてる」
「今はイの話でしょ」
と、話がすれ違う。
こちらはZを含んだ地図を見ているつもりなのに、
相手は毎回、
その場のア/イだけを処理している。
結果として、
同じ話をしているはずなのに、
どこまで行っても噛み合わない。
【山田さん】
ア ➔ ア′
イ ➔ イ②
(個別処理)
【自分】
Z(前提)
│
ア ──┼─ ➔ 解釈
イ ──┘
(同じ地図上に配置)
自分:前提(Z)を起点に配置を見る
事例【1】と【2】:対応づけ
事例【1】
事例(会話・主張)
Aという要素がある
それをどう評価・位置づけるかで意見が食い違う
地図
A→C という関係性全体(流れ・配置)
層
関係性が立ち上がる層(単体ではなく連結)
構造
A単体を個別に扱う
あるいは A’ / A1 のように分岐させて処理する
▶ 同じAを見ていても、
・こちらは「A→C」という地図
・相手は「Aという部品」という構造
を見ている。
事例【2】
事例(会話・主張)
アの話とイの話がそれぞれ出てくる
地図
その背後にZという前提がある
層
Zを含む前提層(無自覚な共有前提)
構造
アもイもZを無視して個別案件として処理
▶ こちらは「Zを含む地図」を見ているが、相手は「ア」「イ」を単発の構造として扱っている。
ここで一段落
ここまでで、
何が事例で
どこが地図で
どこから構造がズレているか
は、図として見ると一気に整理されます。
「なるほど、噛み合わないわけだ」で一度止まるポイントです。
実践編:実際に【1】を説明してみると何が起きたか
では、事例【1】を実際に説明してみたときの話です。
説明したつもりの内容
「Aの話なんだけど…うーん、
要するにBだよね?」
※ 自分の感覚では「簡潔に、分かりやすく」説明したつもり。 削った意識はなく、整理しただけ。
実際に起きていたこと
この説明自体が、すでに 地図側からの説明 になっていた。
A→Cという図式が「前提」として含まれている
しかし相手は、そもそもA単体の構造に立っている
そのため、相手側には 「?」 が返り続ける。
こちらが 「だから、さっきから言っているじゃん」 と感じたとしても、
前提の層が共有されていない以上、情報量が足りない。
「だーかーらー、さっきから言ってるじゃん」の正体
自分
A
C
B
を 同時に保持しているから
でも相手は、
いま
A´ か A1 か
を 一つずつ処理している
👉 つまり
同じ情報を繰り返していない
違う階層のことを話している
なぜ「簡潔」が逆効果になるのか
自分の「簡潔」
無駄な枝葉を省く
本質(地図)だけを出す
相手もそこに立てる前提
相手に必要なもの
途中経路
なぜAから外に出ていいのか
どこで視点を切り替えるのか
だから、
簡潔=親切
ではなく、
簡潔=前提共有が済んだ人向け
何がズレていたのかを分解すると
ズレていたのは内容ではない
説明の巧拙でもない
説明の仕方そのものが、構造の違いを跨げていなかった
「なるほど」を説明しようとした瞬間、 その説明自体が、また同じズレの構造に乗ってしまっていた。
正直に言うと、
「なんでわかんないんだよ」と思っていた。
でも最近、別の意味で納得してしまった。
自分が無自覚にやってきた処理を、
あとから言語化しようとして気づいた。
量が多い。
種類も多い。
しかも同時進行。
え、こんなめんどくさいこと、
無意識でやってたのか? 何これ?
これを工程抜きで「パン」と出されたら、
そりゃ分からない。
相手が理解力に欠けている、
という話ではなかった。
一番大変だったのは、
他人の発言を分解することではなく、
自分がどの位置から世界を見ていたのかを、
言語化することだった。
