吸血鬼と人魚の結び付き――『ドラキュラ』から『SIREN』まで怪異の系譜を辿る
こんばんは。「吸血鬼ちゃんねる」です。
前回の記事では、「因習村」と「吸血鬼」の関係を語る中で、ホラーゲーム『SIREN』について少し触れました。
今回はそこから一歩踏み込み、
「吸血鬼」と「セイレーン(≒人魚)」というテーマについて考えてみたいと思います。
(なお今回は、史実や文献だけでは断定できない部分も多く、執筆者自身の考察や推測も含まれます。あくまで一つの見方として楽しんでいただければ幸いです。)
前回の記事はこちら↓
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今回取り上げる作品
メイン
* 『オデュッセイア』(紀元前8〜7世紀頃)
* 『南総里見八犬伝』(1814年)
* 『吸血鬼ドラキュラ』(1897年)
* 『SIREN』(2003年)
少しだけ触れる作品
* 『バンパイアハンターD』(1983年)
* 『屍鬼』(1998年)
* 『黒塚』(2000年)
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『SIREN』の「SIREN」はサイレンであり、セイレーンでもある
ゲーム『SIREN』というタイトルは、警報を意味する「サイレン」と、ギリシャ神話に登場する怪異「セイレーン」の両方を意味するとされています。
セイレーンは『オデュッセイア』に登場する怪物で、美しい歌声によって船乗りを誘惑し、死へ導く存在です。
現在では人魚として描かれることも多いですが、古い時代には半人半鳥の女性として表現されることが一般的でした。
時代が下るにつれ、人魚とセイレーンのイメージが徐々に融合していったと考えられています。
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『SIREN』は吸血鬼作品からも影響を受けている
『SIREN』の元ネタについて調べると、
* 『屍鬼』
* 八百比丘尼伝説
* 人魚伝承
などが挙げられることが多いでしょう。
実際、屍人は人間の血を失い、「赤い水」を取り込むことで異形へと変化していきます。
これは、
『吸血鬼ドラキュラ』において
* 人間の血を吸われる
* 吸血鬼の血を飲まされる
という吸血鬼化の過程とも、どこか共通した構造を持っています。
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『吸血鬼ドラキュラ』にはセイレーンを思わせる描写が存在する
ここで興味深いのが、『ドラキュラ』の作者ブラム・ストーカーです。
ストーカーは英訳版『オデュッセイア』を読んでいたことがほぼ確実と考えられており、第4章のドラキュラ伯爵の台詞では、
Welcome the coming, speed the parting guest.
(来たる者を迎え、去りゆく者を送り出せ)
という、『オデュッセイア』英訳版からの引用が登場します。
また、第3章に現れるドラキュラ伯爵の三人の花嫁たちは、
人間では出せないような甘美な音色でジョナサン・ハーカーを誘惑し、怪異の世界へ引き込もうとします。
その姿は、人を歌声で誘うセイレーンをどこか連想させます。
もちろん、ストーカーが意図的にセイレーンを重ねたと断言することはできません。
しかし、『オデュッセイア』を愛読していた作家であることを考えると、そのイメージが作品のどこかへ自然に滲み出ていた可能性は十分考えられるでしょう。
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日本では「人魚の肉」が吸血鬼との共通点になった
日本には古くから、
人魚の肉を食べることで不老不死になる
という八百比丘尼伝説があります。
一方、『ドラキュラ』では、
吸血鬼の血を取り込むことで吸血鬼へ変化し、不老不死に近い存在となります。
つまり、
怪異の血肉を取り込むことで人ならざる存在になる
という共通した構造を持っています。
『ドラキュラ』が日本へ紹介されたことで、
八百比丘尼伝説と吸血鬼伝承は、日本人の感覚の中で自然に重なっていったのではないでしょうか。
この点は、西洋よりも日本の方が、人魚と吸血鬼の結び付きが強くなった理由の一つなのかもしれません。
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その後の作品にも見られる「吸血鬼×人魚」
こうしたイメージは、その後の創作にも見られます。
『バンパイアハンターD』では、「北海魔行」や「岬のセイレーン」など、人魚やセイレーンと吸血鬼のイメージを重ねた描写があります。
また、夢枕獏『黒塚』では、海外から流れ着いた吸血鬼の血を取り込んだ黒蜜が、人魚を食べた八百比丘尼ではないかと噂される場面も描かれています。
そして『SIREN』では、堕辰子(人魚)の肉を食べた八尾比沙子(八百比丘尼)が物語の根幹を担っています。
さらに遡れば、『南総里見八犬伝』でも、八百比丘尼と化した玉梓が物語の黒幕として登場します。
もちろん直接の影響関係は断定できませんが、『SIREN』がこうした日本怪談の系譜から着想を得ていた可能性は十分に考えられるでしょう。
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海辺には「血を吸う怪異」が存在する
日本には、人間の血を吸うとされる怪異「磯女」の伝承もあります。
海辺には、人魚だけでなく、血を吸う怪異というモチーフも存在していたことになります。
その意味でも、「海」と「吸血鬼」は、日本では思っている以上に相性の良い組み合わせだったのかもしれません。
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おわりに
……ここまで色々語ってきましたが、実は執筆者はかなりの怖がりです。
ゲームもあまり得意ではないため、『SIREN』は実況動画を少し見た程度で、実際にプレイしたことはありません。
それでも「もっと調べたい」「記事を書きたい」と思わせてしまうほど、この作品には強い魅力があります。
今回は「吸血鬼」と「人魚」という少し珍しい切り口から、『ドラキュラ』と『SIREN』を中心に、その周辺作品も含めて紹介してみました。
異界入りの季節を前に、SIREN好きの方、怪異や人魚伝承が好きな方、そして吸血鬼好きの方々にとって、何か新しい発見があれば嬉しく思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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余談:
セイレーンは元々ペルセポネに仕える乙女たちであり、ハデスによるペルセポネ誘拐の後、母デメテルが娘のペルセポネを探させるためセイレーンを怪異の姿へ変えた――という伝承も存在します(諸説ある中でも比較的マイナーな説です)。
『ドラキュラ』で伯爵がイングランドへ渡る際に乗船した船の名は「デメテル号」。
デメテル号のエピソード自体は実在の難破船「ドミトリー号」事件から着想を得たものとされています。
しかし、『オデュッセイア』を愛読していたブラム・ストーカーのことを思うと、「デメテル」という船名にも、ギリシャ神話へのささやかな遊び心が込めていたのかもしれませんね。
