あなたは、車椅子を押したことがありますか?
だれモビ思想の中で、どうしても伝えたい問いがあります。
「あなたは、車椅子を押したことがありますか?」
この問いは、単なる体験談ではありません。
これは、社会の設計思想を問い直す問いです。
■ 車椅子を押して歩くという現実
街中で車椅子を見ることはあります。
駅、病院、ショッピングモール、観光地。
けれども――
実際に押したことがある人は、どれくらいいるでしょうか。
押して初めて分かることがあります。
段差の恐怖
傾斜の重さ
歩道の狭さ
ちょっとした砂利の抵抗
横断歩道の微妙な傾き
押す側の手に、腕に、腰に、そして心に
現実が伝わってきます。
■ 車椅子を押して行ける「通常距離」
一般的に、介助者が無理なく押せる距離は
平坦な道で約300〜500m程度と言われます。
もちろん個人差はあります。
利用者の体重
車椅子の重量
路面状況
気温
介助者の体力
しかし、実際に押してみると分かります。
500mは、想像以上に長い。
とくに夏場。
とくに荷物があるとき。
とくに向かい風のとき。
1km?
正直に言えば、かなりの重労働です。
観光地で「ちょっとあそこまで」は
健常者の感覚で言えば5分でも、
車椅子では“体力勝負”になります。
■ 上れる勾配とは?
国のバリアフリー設計基準では
スロープ勾配は1/12(約8.3%)以下が基準とされています。
つまり、
1m進むのに8.3cmの高さまで。
理論上はこれが「安全」とされています。
しかし。
実際に押してみてください。
1/12は、決して楽ではありません。
短距離なら押せます。
けれど、10m、20m続いたら?
利用者が70kg、80kgある場合、
押す側の体重が軽ければ
体重移動と全身の力を使わなければ上がれません。
さらに、雨の日。
タイヤが滑る。
手が濡れる。
靴が滑る。
現場では「基準=楽」ではないのです。
本当に楽なのは
1/20(5%)程度以下です。
これなら会話をしながら押せる。
だれモビ思想は、
「基準クリア」ではなく
「現実で楽か?」を問います。
■ 下り坂の恐怖
上りよりも怖いのは、実は下りです。
勾配が強くなると、
車椅子は一気に前へ出ようとします。
介助者は全体重を後ろにかけて
腕でブレーキをかける。
手首が痛む。
指が震える。
特に10%以上の勾配になると、
前向きで下るのは非常に危険です。
そのため、
急な坂ではバックで下る必要があります。
では、バックで安全に下れる勾配は?
現実的には
8%を超えるとかなり緊張状態です。
10%を超えると、
経験がなければ危険です。
段差と組み合わされば、
転倒リスクはさらに高まります。
つまり――
街の設計は「理論上」優しくても、
実際には介助者の筋力頼みなのです。
■ それは、押した人にしか分からない
車椅子を押すという行為は、
単なる移動補助ではありません。
相手の命を預かる感覚
転倒させてはいけない緊張感
周囲の視線
通行人の無関心
そして、申し訳なさを感じる利用者の気持ち
押す側も、乗る側も、
どちらも心を使っています。
この構造が、
外出を「ハードル」にしているのです。
■ だれモビ思想が目指すもの
だれモビは、
「押さなくてもいい社会」を目指します。
押すことが悪いのではありません。
けれど、
毎回誰かの体力に依存する社会
家族しか支えられない移動
外出=重労働になる構造
これは持続可能ではありません。
■ ゼロか100ではない
歩けるか、歩けないか。
自立か、介助か。
社会はすぐに
ゼロか100で分けます。
だれモビは違います。
プラス1の選択肢を増やす。
少しだけ自走できる
少しだけ電動で補助できる
少しだけ距離を延ばせる
少しだけ負担を減らせる
それが積み重なれば、
外出は“苦行”ではなくなります。
■ 本当に優しい街とは
段差をなくすことだけでは足りません。
勾配を緩くする
距離設計を見直す
休憩ポイントを増やす
トイレを近くする
日陰をつくる
ベンチを置く
物理設計と心理設計の両方が必要です。
押す人が疲れない街。
乗る人が遠慮しない街。
それが、だれモビの描く未来です。
■ もしあなたが押したなら
今日、もしあなたが
車椅子を押して500m歩いたら。
きっと気づきます。
「あ、これは簡単じゃない」
その体感こそが、
社会を変える第一歩です。
だれモビ思想は、
体験から生まれています。
机上の理論ではありません。
押したことがあるから分かる。
押したことがない人にも伝えたい。
移動は、権利です。
そして、
その権利を守るには
“楽に動ける設計”が必要です。
■ 最後にもう一度
あなたは、
車椅子を押したことがありますか?
押したことがないなら、
一度、体験してください。
きっと、
街の見え方が変わります。
だれモビは、
その「気づき」から始まります。
そしてその気づきが、
社会の勾配を、少しずつ、
ゆるやかにしていくのです。
それが、だれモビ思想です。

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