どうしましょう、結婚指輪を失くしました。
なんかおかしい。と気がついたのは、友達と女3人日帰り箱根弾丸ツアーを満喫した,帰りの新幹線待ちのホームのことだった。
自分の指がおかしい。初めはその違和感が何かわからなかった。それは、あまりにも普通にあるものだったから。だから、違和感の原因に気がついた時の衝撃は、かなりなものだった。
結婚指輪がない!
真っ先に夫の顔が浮かんだ。
何と,25年はまっていた指輪が,薬指から消え去っているではないか。
みんなで慌てて探し回ったがみつからない。そもそもいつからないのかわからない。楽しかった旅の締めくくりが結婚指輪喪失なんて、
シャレにもならない。
と、友達2人が口を揃えて言う。
もしかして、家にあるんじゃない?
そうかもしれないね
なんて会話をして捜索は早々に打ち切った。
でも,私は知っている。指輪がうちにあるわけない。
昨夜,夫とした会話を思い出した。
[私]みんないつまで結婚指輪してるんだろうね。
[夫]ワシなんか,はずしたくても食い込んでハズレやん。はずれやんときは、消防署で切ってもらうらしいで。レスキューや。
[私]私も結構食い込んでるで。
私は、自分の薬指の指輪をぐいぐい引っ張って引き抜く。外した後の指のそこだけくっきりとくびれができている。これがウエストなら,バービーちゃん並みのナイスボディだ。
[私]私たちは,痩せない限り,永遠に愛を誓わされるわけだ。
[夫]ワシ,今から痩せるとは思えやんから,死ぬまで結婚の呪縛からは逃れられやんのかあ。
何だ,その残念そうな顔は!
しかし,夫だけ結婚の呪縛をはめさせるのは悪い気がする。仕方ない,私も、痩せて指輪が勝手に外れるまではめておくか。
と,はめなおす。あまりに長い付き合いの指輪は,今や指の一部。くびれに収まると、はめていることさえわからないくらいにピッタリ収まる。確かに,関節部分は押し込みました。ぐいぐいと。だから,手を振ったくらいで抜けるはずなどないのだ。
そして,冒頭の場面である。
どこで落としたかなあと記憶を遡る。朝は,絶対はめていた。昨日の夫婦の会話を思い出し,確認したのだから。
さっぱり記憶にない。
うちに帰って、ことの顛末を話す。
「ワシは,外したくても外れやんのに、はずす気のないあんたが無くすとは皮肉なもんやな。」
すると,長女がポツリ言う。
「写真撮ったんなら,写ってるんじゃない?」
そうか,写ってるかも。慌てて,みんなで写真に映る私の左手の鑑定をする。
順番に時間を遡る。ここはない,次もない。みんなで順に確認する。これは鑑定できないな。まるで,科捜研の女である,。
そして,1番最初の写真。
あら?ない。何度見てもすでにない。そうすると,指輪は新幹線?まさかのウチ?車?
てっきり,箱根に結婚という呪縛を置いてきたと思っていた。広い箱根だ。これじゃあ,探しようがない。諦めようと思ってた。
でも,家や車なら話は変わってくる。探せるじゃないか。てか,探さないとダメじゃないか。そこに,見つけないといけないプレッシャーが加わる。
え〜探さないとあかん?
どこかで,指輪が外れなくなる前に、外すきっかけを探していた私は,内心しめしめと思っていたのかもしれない。
わたしは指輪のない薬指を見た。ここに指輪がはまっていようが、なかろうが、私の生活が何か変わるのか?もっと言うなら、指輪がなくても気にならないと言うか、今や,なくてもあるみたいな感覚。無くしても1日気が付かないくらい。
あれからずいぶん経った。結局形だけの捜索をしたけど、指環はみつからなかった。私の薬指は、きつい指輪から解放されたけど,私自身は以前通り,家族に振り回され毎日を過ごしている。
でも一つわかったことがある。結婚の呪縛なんて言ったけど,もともとそんなものなかったのだ。
たしかに,結婚はわずわらしいこともたくさんある。放り出して独身に帰りたくなることもある。
でも,それは呪縛ではなく、絆の証だ。自分たちの結婚が始まりとなり、広がる私たちと周りの人との絆、増えていく家族との絆、その家族がつなげるさらなる絆。その中に確かにいるという安心感。
それらは目には見えないけど,確かにある。私の結婚指輪と同じだ。
指輪を結婚の呪縛という夫にも、こんな気持ちを味わわせてやりたい。
「ねえ,指を紐でぐるぐる巻きにして,指輪を抜くってのがあるけど,やってみる?」
実際やってみたが、そう上手くはいかない。夫の指輪は食い込んだまま。びくとも動かない。
こりゃ,やっぱりレスキューか。でも、切るのはよろしくない。指輪は絆の証。絆を切るのはなあ、縁起がよくない。無くすのは仕方ないけど(笑)
だから,絆が見えない鈍感な夫には見える指輪を。見えない絆もしっかり感じられる私には見えない指輪を。私たちの,結婚指輪は形は違うけど、同じものがはまっているのよ。
「結婚指輪はめたまま,棺桶に入る爺さんなんて見たことないぞ。ワシの指が指輪に乗っ取られたらどうすんのや?」
やっぱり,夫にとっては、結婚指輪は違う意味で呪縛には違いない。お気の毒な事ですな。
