第17話|こぐまベーカリーの、泣いた朝のトースト
今日も、おつかれさま。
でも――
今日は、
“おはよう”が
少し むずかしい朝でした。
泣いた 次の日の朝。
理由は、
ちゃんと 説明できない。
昨日の言葉。
うまくいかなかったこと。
さみしさ。
がんばりすぎた心。
ただ、
目が少し はれていて。
いつもみたいに
元気よく
起きられない朝。
そんな朝。
ふらふら歩いた
曲がり角で――
こんがり香ばしい
匂いがしました。

木のドア。
小さなベル。
くまの形の 看板。
「こぐまベーカリー」
“泣いた朝にも、
どうぞ”
「……え?」
気づけば、
女性は
その扉を 開けていました。
カラン。
店の中は、
バターの匂い。
焼きたての音。
やさしい朝の光。
「いらっしゃい」
出てきたのは、
白い帽子をかぶった
こぐま店長。
ころんとした手。
まあるい目。
ふわふわの声。
「今日は
少し、
しょっぱい朝ですか?」
女性は、
びっくり。
でも――
なぜだか
少しだけ
笑ってしまいました。

すすめられたのは、
一枚の トースト。
でも、
ふつうじゃありません。
片方には、
はちみつ。
片方には、
ほんの少し
しお。
「甘い日だけじゃ
ないですからねぇ」
こぐま店長は、
トーストを
ことり。
「泣いた朝には、
甘さだけじゃなく――」
「少しの
しょっぱさも、
ちゃんと 朝ごはんです」
女性は、
ひとくち。
さくっ。
じんわり。
甘い。
しょっぱい。
あったかい。
気づけば――
昨日の涙が、
“だめなこと”じゃ
なかった気がしました。
泣いたのは、
弱いからじゃない。
ちゃんと
感じたから。
ちゃんと
がんばってたから。

食べ終わるころ。
こぐま店長は、
小さな紙ナプキンに
ひとこと。
“泣いた朝も、
ちゃんと
今日です”
女性は、
その言葉を見て。
ぽろっ。
でも 今度は、
昨日と少し違う涙。
“もう少し
やってみようかな”
そんな涙。
帰るころには、
空も少し
明るくて。
足どりも、
ほんの少し
軽い。
泣いた朝でも、
今日は
はじまっていい。

もし今日、
少しだけ
泣いた朝なら。
大丈夫。
しょっぱい気持ちも、
甘いやさしさも。
どっちも あって、
いい。
泣いた朝も、
ちゃんと
あなたの 今日。
だから。
今日を はじめるだけで、
もう えらい。
大丈夫。
朝は、
何度でも
やさしく 焼きなおせる。
明日が、少しだけやさしくなりますように。
あなたは今日、
“泣いた朝の自分”にも
やさしく朝ごはんをあげられましたか?
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