小説 山 「創作」
20代の半ばに起こったこと。俺は体毛の中ですね毛が圧倒的に一番濃くて体毛自体はすくないほうなのだけど、なぜかすね毛だけは別のDNAが主体的に形成してるんちゃうかってぐらいボーボーで、でも真夏ぐらいは暑さにかまけて家の近所、ワンマイルくらいは半パンで過ごしたい、そんなどうしても暑い夏の日の昼間に起こったことだった。
家は都心から少し離れていて、少し歩くと山が隣近所の辺鄙でさみしい場所に住んでいた。仕事場の工場から近いのと家賃補助が出るからっていう安直な理由で家を決めたのだけど、ご近所さんもおじいおばあだらけで挨拶してもなんか返事もなにもかも陰気やし、まあ俺も特別明るい人間でもないけれど、まあそりゃ着る服も半パンにサンダルとかっていうだるだるの極みになるのもしょうがない話で。
休日だって三十分かけて、チャリンコと電車で都心へ行って遊ぶのだけども
真夏やし恋人もいないし友達もいないしネットで動画を観たり、ネットフリックスで映画を観てこらえきれなくなったら、外へ出て一応舗装された近所の山の中の神社まで歩くのが休日の過ごし方として定着されていて、その当日の土曜日はネットフリックスでゲームオブスローンズを体と心が許される限界まで観ていたので普段出ていく時間よりも遅く、もう日が暮れて夜に近い時刻をでも暑いので部屋着のまま外出した。
すきな音楽をかけて神社まで歩くー今考えてみるとあれは一種のセラピーのようなものやったのかもー赤い鳥居の下で踵を返そうとしたとき
独りの老人がじーとこちらのほうを見ていた。
俺のすね毛を、まるで自分よりも下等な存在を見るようにじーと。
なんでこんな爺にこんなじーとみられるねんって怖さといら立ちから俺も負けじと睨み返した。向こうはすね毛に焦点が当たりすぎていてこちらがにらんでいることに気が付いていない。
ほんまに長い間そんな時間が繰り広げられた後老人の口がずっと動いてるのに気づき、イヤホンを片方取った。
「気持ちわる、気持ちわる」と繰り返しつぶやいていた。
私は感動した。この場所に居続ければ私は堕ちてしまうと悟った。
ダッシュで家に帰って、その次の日から会社に申請をし貯まっていた有休を消化して転職し家を都心のほうへ移した。
