池袋「英国鮨(イギリスシ)」。――名前で笑って、食べて驚く、5,500円の鮨屋
今回は面白いお寿司屋さんを発見したので、ご紹介します。
店名からしておかしい
店名が、漢字で「英国鮨」と書いて「イギリスシ」と読みます。それだけでもう面白いんですけれども。
場所は池袋と目白の間あたり、明治通りから入った住宅街で、隣がスナック、ちょっと先もスナック。お店自体も、もともとスナックだったというところです。わずか6席の小さなお店で、4月25日にオープンしたばかりです。
29歳の店主・前島輝さんとは
店主は29歳の前島輝(てる)さん。生まれは熊本、育ちは埼玉・川越です。
大学院時代にロンドンに留学していて、現地で和食や寿司の人気を肌で感じたそうです。ただ帰国後はすぐに寿司の道には進まず、丸亀製麺でおなじみのトリドールに入社してマーケティング部署で4年間勤務。その後退社して、いまテレビドラマでも話題のすし学校のひとつ「東京すしアカデミー」に入学し1年間勉強。その後、代田橋にある「立食い鮨 鮨川」——ミシュランのビブグルマン店——で修業をしていた間に今の物件の話が来て、独立されたということです。
5,500円という価格の秘密
コースがなんと5,500円なんです。おつまみ3品が出て、その後に握り10貫、お椀、デザートが付いてこの値段。さすがに安すぎないかと思ってお聞きしたら、実はこのお店がメインの仕事ではないんだそうです。
前島さんの主な仕事は「お寿司屋さんの仕込み代行」。寿司屋というのはただ魚を切って出すわけではなく、締めたり、漬けたり、様々な仕事が必要ですよね。その代行を複数のお店から請け負っていて、このお店はある種の実験店であり宣伝の場でもある。しかもワンオペなので、この値段が成立するそうです。
イギリス×鮨という前衛
では何がイギリスなのかというところですが、まずBGMがビートルズ。ワンダイレクション、クイーン、オアシスといろいろ試したらしいんですが、合わず。やっぱりビートルズが一番しっくりくると。確かにビートルズの曲はどんなお客さんでも知っていますし、寿司とビートルズというのが、実際に聴いてみると意外なほど合うんですよ。
そして料理にも随所にイギリスが登場します。
酢飯には横井の酢と共に黒ビール——ギネスです——を使用。最初に出てくる「和風フィッシュ&チップス」にはモルトビネガー。このモルトビネガー、実はイワシや小肌を締めるのにも使っています。カツオの赤身の漬けにはイギリスのコールマンのマスタードをのせ、スミイカにはマルドンの塩を使う。

マルドンというのはイギリスの王室御用達の塩なんですが、「木村拓哉さんが愛用している塩です」とおっしゃっていました(笑)。なかなかキャッチーですよね。モルトビネガーはイギリスの家庭に99%あるといわれるサーソンズのものを使用。

これだけ各所にイギリスのものが組み込まれていて、しかもそれが面白いだけでなく、味がはっきりしてわかりやすい美味しさになっているんです。ガリもギネスの黒ビールで漬けてあって、これが意外につまみになって旨い。お子さんには不評だそうですが(笑)。
寿司のベースはきちんとしている
ご本人の言葉を借りると、「イギリスの文化と寿司を融合させた前衛的な寿司屋」ということなんですが、大事なのは、寿司のベースはしっかり守られているということです。奇をてらった変な店というよりは、面白くて美味しいお寿司をいただいた、という気持ちになれる。そこが大事なところです。
お酒も日本酒は担当のお酒屋さんと契約していて、田酒、鍋島、飛露喜といったいいものが揃っています。アップルサイダー(英国式の辛口シードル)も置いていて、実は和食との相性がいいそうです。ご主人がロンドンで愛飲していたというポートベロ・ロードジンも美味しかったですねえ。
ただ、モルトウイスキーはもちろん置いているのですが、あまり出ないそうです。やはり。
今のうちに行っておいて
前島さんが将来的に目指しているのは、仕込み代行の仕事も含めて、きちんとした寿司文化を東南アジアを中心に広げていくことだそうです。ベトナムではおまかせ寿司が富裕層のステータスになりつつあり、大きな可能性を感じているとのこと。
つまり、このお店が何年も何十年も続くかというと、そうではないかもしれない。だからこそ、今のうちに行っておくといい一軒だと思います。
5,500円で、この体験ができる。楽しいお店です。
この記事は、ポッドキャスト「オオキアツオの いま行くべき店、死ぬまでに行くべき店」#008の内容をもとにしています。音声版もぜひお聴きください。
