神保町「猫猫」——5.5坪の路地裏に、若者二人が賭けた立ち飲み中華
読んでくださり、ありがとうございます。
今回は、7月3日、神保町にオープンした「立呑み中華 猫猫(まおまお)」をご紹介します。
二人の若者が独立して
共に30代の若者二人が独立して開いたお店です。
シェフは埼玉の志木にある「宇宙飯店」出身。サービス&お酒担当は、美味しいビールで有名な「パーフェクトビアキッチン」出身。
「パーフェクトビアキッチン」は、ここのところFC展開をしていて、神宮球場にも出店していますね。そういえば東京ドームには渋谷の老舗焼鳥「鳥竹」が出店しています。スタジアムグルメ、どんどんクオリティがあがっていますね。まあそれはともかく、そこで技術を身につけた彼の生ビールが飲めるわけです。
場所は、神保町から白山通りを水道橋方面に進んで右折した細い路地裏。この路地自体がものすごく昭和の雰囲気があって、夕暮れ時など最高です。築80年で、30年ほど居酒屋が営業していた物件をフルリノベーション。わずか5.5坪、10人も入れば満席です。

鳥取の度数5度の日本酒も
飲み物のウリはこの生ビールと各種中国茶割なんですが、それ以外にもサーバーのソーダを使ったハイボールや、もちろん紹興酒もあります。
あとはすごく面白い日本酒もありました。
鳥取県の久米桜酒造の日本酒で「青れもんドオ」というのをいただいたんですが、酸味がむちゃくちゃ高くて、アルコール度数は5度——ふつうは15度くらいなのに、ビール並みの低さで、ちょっとびっくりしましたね。ワインが好きだと言ったら、「ワインは無いんですが」と出してくれたんですが、美味しかったですねえ。紹興酒にもちょっと似ていて。

聞いたら、彼はもともと鳥取県出身ということもあって、鳥取の日本酒を扱っているそうです。鳥取って、世田谷区より人口が少ない。でも、素晴らしい人材を輩出しているなと思っていて——「いや、鳥取といえばあのバンドですよね」と言ったら、悲しい顔をして「それは島根県です」と。そうなんです、「Official髭男dism」は島根県出身です。すみませんでした。
鳥取といえば、水木しげるロードと鳥取砂丘、大変お高いことでも有名な蟹料理店などがありますが、僕は中学生の頃に大好きだった柳沢きみおさんの『翔んだカップル』で主人公の友達の中山君が、行方不明だと思ったら鳥取砂丘にいた、というのが最初の鳥取県の思い出です。まあ、そんなことはどうでもいいとして。
場を作る、コミュニケーション
このコンビが、すごくいいんですよ。
インスタを見ると、開店前にふたりで有名な立ち飲み屋さんに何店も行って研究していたり、あと内装費削減のために、ふたりで壁を塗っていたり、がんばれと言いたくなりました。
サービスの彼は関西弁で、非常にコミュニケーション力が高い。周りを巻き込んで場の雰囲気を作っていくということを得意としているみたいですね。
名物にしたい料理を聞いたら
シェフの料理もおいしい。食べログの口コミを読むと、よだれ鶏と麻婆豆腐が素晴らしいという話があって、皆さん必ず頼んでいる。水餃子もですね。僕も水餃子を頼んだんですけれども、これはシェフが埼玉にいたということもあって、武蔵野うどんの小麦粉を使った皮なんですよ。皮が美味しい餃子はいいですよね。

とはいえ、いつものように「これは名物料理にしたいと思っている、おすすめ料理は何ですか」と聞いてみたんです。当然、よだれ鶏とか麻婆豆腐という答えが返ってくるかと思ったら——サービスの彼は「僕は角煮の黒酢酢豚が好きです」と。シェフは「エビマヨブロッコリーが美味しいです!」。
え?
でも、確かに両方とも注文したら、むちゃくちゃあたりでした。シェフがブロッコリーが好きらしくて、もちろん海老はプリプリしているんですけれど、酸味のバランスが非常に良くて。酢豚も、下にポテトサラダが敷いてあるんです。だからまさに酒のあてにぴったり。


あとは、もともと干し豆腐が好きなので、一品目にオーダーしたんですが、この日の干し豆腐は——日によって違うそうです——カラスミがけになっていて。これで心をつかまれましたね。
どれも小皿で出してくれるので、ついついもう一品、頼みたくなります。

蒸してから焼く、太麺の焼きそば
最後に、オイスター焼きそば。焼きそば好きなので頼んだんです。
いわゆる具なしの焼きそばですね。ネギだけ。まず太麺をその場で蒸す工程から始まって。で、すぐに炒めるんですが、独特のもちもちの食感。そこにオイスターソース。甘すぎもせず、辛すぎもせず、シンプルがゆえの美味しさというものをすごく感じられて、また食べたいなと。

立ち飲み中華という業態
もともと立ち食い中華というのは、大阪ではそこそこあるんですけれども、東京ではほぼなかったんです。そんな中、2023年に自由が丘にできた「立呑み中華 起率礼」が大ヒットして、行列のできる立ち飲み中華になった、ということがありました。そこからブームになって、同じ系列で渋谷に「立食 型破離(カタヤブリ)」もできました。以来、ぽつぽつ出てますよね。
つかず離れず、みたいなお店もありますが、きっちりお店側からコミュニケーションを取っていくお店かと思います。
5時のオープン時に行ったので、最初は客が僕一人しかいなかったんです。でも、その時のかかわり方が全然嫌じゃない感じで、楽しく会話もできて。その後すぐに満席になったんですけれども、それぞれのお客さんとの駆け引きというか、やりとりもすごくいい感じにできていて。「ここはもう流行るんだろうな」と感じました。
神保町は、美食の街になってきた
神保町って、やっぱりいい店もある一方で、本屋さんに本を買いに行く場所でもありますよね。そんな時にフラッと寄るのにもいいんじゃないでしょうか。
そういえば、リニューアルして今年3月にオープンした三省堂書店神保町本店も素敵です。見ているだけで楽しくなるし、何がいいって、日本有数のその本屋の2階の新書売り場に、ちゃんと僕の本も置いてあるんですよ。『50歳からの美食入門』でございます。1階のガイド本コーナーにはもちろん『東京最高のレストラン2026』もあって。やっぱりいい書店だなと思いました。
僕は神保町といえば「松翁」と「ランチョン」だったし、夜の早い街というイメージがあったんですが、ここ10年くらいでいいビストロやレストランも増えて、いつの間にか美食の街になってきていますね。
ということで、若者ふたりががんばって作ったお店、ぜひ訪れてみてください。
それでは、今日もありがとうございました。失礼します。
この記事は、ポッドキャスト「大木淳夫の いま行くべき店、死ぬまでに行くべき店」の内容をもとにしています。音声版もぜひお聴きください。
