399.【エッセイ】カルロさんとマティアスさん
夫の転勤で住んだ国。
詳細は、伏せたいので、
ドイツ語圏としておこう。
私は、家族とその国で昔、4年間暮らした。
初めの1年半は、ドイツ語学校に通い、
その頃の私なりの精一杯の努力で、勉強して、どうにかこうにか、
中級1くらいまでの試験にも合格したものの、
すっかり固くなった脳みそでの言語の取得は、
なかなか厳しいものがあった。
日常の生活は、
困ることはなかったけれど、
言葉が通じない国に、
3年以上住んでくると、
駐在している日本人も入れ代わり、
せっかく交流していた友達も
どんどん帰国したり、
別の国に引っ越したりする。
ドイツ語があまりできない私は、
人見知りな性格も手伝って、
長期駐在になるにつれ、
孤独感や疎外感も感じていた。
地域に馴染むのが、
何より難しかったからだ。
そんな中、毎週土曜日に開かれる
地域の朝市に買い出しに行くという習慣は、
私の小さな楽しみになっていた。
駐在3年目くらいから始めた習慣。
オーガニックの普及が進んでいるこの国では、
地元の朝市にオーガニック野菜を扱うお店も
何店舗か当たり前のように立ち並ぶ。
カルロさんとマティアスさんは、
そこの市場にある
オーガニック店の店員さんだった。
毎週通っていたら、
日本人というだけでも目立つし、
家族連れ立ってきて、数日分の野菜を
大量に買い込むので、
すっかり顔を覚えてもらったみたいだった。
カルロさんは、
オーガニック野菜とパン、焼き菓子を
売っているお店の人。
短髪で、
朗らかな笑顔の中年のイタリア人。
少しばかりふくよかな体型が、
彼の陽気さをさらに引き立て、
穏やかな雰囲気の彼と会うと
自然と笑顔になる。
そこのお店の店員さんは、
3名ほどいたけれど、
私がそのお店を訪れると、
カルロさんが、
「Oh~!Guten Morgen!」
(おはよう!)
と声をかけてくれる。
目配せで、合図をして、
決まって、私の会計の担当に
なってくれていた。
なんだか、専属店員さんのよう。
市場は、
広場に大きな車を乗り入れて、
その車の前に、
簡易式の棚を置き、
その上に、所狭しと
色とりどりの野菜が並べられる。
その野菜の上に、乱雑に置いてある
紙袋を取って、
私が欲しいだけの野菜を
袋に詰め込み、
カルロさんに渡して、
彼が、アナログな秤で測り、
会計をしてもらうという流れ。
カルロさんに
私の選んだお野菜の袋を渡すと、
彼は、まず、秤で計る。
そこで、値段を用紙に適当に書き、
その後、しれっと
同じ野菜を2個くらい袋に入れて、
おまけをしてくれる。
パンは、カルロさんに
「Das Eins bitte.」
(これ、一つお願い)
と、指差しながら注文すると
そのパンを袋に入れた後、
注文していない、
横にあるケーキをサービスだと、
しれっと1個、
袋に入れてくれる。
さらに、会計の時、
カルロさんが私に告げる合計額は、
どう考えても、少ないだろう
という金額になっている。
「Ist das OK?」
(いいの?)
というと、
「Kein Problem.」
(問題ないよ〜)
と言って、笑顔で、ウィンクしながら、
誤魔化す。
その金額は、
大体、おおよそ20%オフになっている。
たまに、お客さんが少ない時は、
少しだけドイツ語で日常会話をしたりした。
毎週通うごとに、
私にとって、彼は、
すっかり顔馴染みの
安心感のある存在になっていった。
カルロさんの働くお店の隣にも、
オーガニックの小さなお店があった。
そこの店員さんが、
マティアスさん。
カルロさんのお店より、
こじんまりしていて、
オーガニックフルーツ100%ジュースや
オーガニックワイン、
鹿肉ペースト、オーガニックフルーツ
など売っていた。
店員は、彼一人。か、
彼がお休みの日は、他の女性店員だった。
マティアスさんは、
20代後半くらい。
地元の青年で、金色の短髪で、
笑顔が爽やかなイケメン。
彼は、日本の漫画が好きなこともあり、
私に、話しかけてくれた。
そんなきっかけと、
そこの商品も美味しかったので
毎週通うようになった。
拙い私のドイツ語でも、
いつも穏やかに、優しく訂正しながらも、
会話をしてくれていた。
毎週土曜日の
たったこれだけの2人との交流が、
私の異国の暮らしの寂しさを
かなり和らげてくれていた。
そこに通うことで、
なんだか
地元に馴染んでいた気持ちにもなれた。
市場通いが、
すっかり定番の習慣になった
2年目の冬。
日本に帰国が決まり、
市場に通う最後の日。
「もう、日本に帰るんだ」
と伝えると、
とても残念そうな顔をして、
「元気でね。」
と言って、握手をしてくれた。
記念撮影もしてもらい、
寂しい気持ちを抑えながらも、
市場を後にした。
「会いたいけれど、
もう会えない人
一番に思い浮かんだのが、
このカルロさんと
マティアスさん。
異国の地で、
少しの会話だけの店員と客という
たったそれだけの関係だったけれど、
なぜだか、
彼らの優しさや温かさは、
私の記憶に深く焼きついている。
今はどうされているのかな?
もう会えないけれど、
また、会いたい・・・

このたびは、
かぜの帽子さんの言葉の庭のお題、
「会いたいけれど、
もう会えないあの人」
がテーマで書かせていただきました。
かぜの帽子さんのお題は、
普段、あまり思い出さない遠くの記憶を
思い出す、きっかけになります。
素敵なお題をありがとうございました。
この度の見出し画像は、
優谷美和さんのイラストを
使用させていただいています。
イメージに合う、
素敵なイラストをありがとうございます💓
最後までお読みいただき、
ありがとうございました✨
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