人間だからこそできること、ってなんだろう
先日、私たち国際基督教大学臨床心理学一門の先輩であり、私のかつての共同研究者でもある、武野顕吾さんがKIKUルームを訪ねてきてくださいました。武野さんは、プロ野球選手をはじめとするトップアスリートやスポーツチームと契約して、選手やチームのパフォーマンスを高めるためのメンタルサポートを専門としている臨床心理士です。久しぶりの再会がとても嬉しく、思い出話なども含めて話が尽きず、あっという間に時間が過ぎていきました。その話題の中から、一部を書き留めておきたいと思います。
子どもたちは、遊びながら舞い散る桜の花びらをつかむことができますが、それは風向きや空気の湿度、重力と空気抵抗、それらのデータを元に花びらの動きを予測してキャッチに成功しているわけではありません。渡り鳥も同様で、毎年行き先を間違えずに地球上の特定の地点を行き来しているのは、鳥の小さな脳でビッグデータの情報処理が行われているのではありません。一方で、A Iは大量のデータを分析して、例えば桜の花びらの一枚一枚が、空気中のどの位置で手に収められるかを予測することができるでしょう。この全く異なる二つのアプローチで、精度が高いのは、実践的なのは、ハイパフォーマンスにつながるのは、果たしてどちらなのでしょうか。
武野さんは、クライエントさんとのカウンセリングや、クライエントさんのパフォーマンスを実際に観察してきたご経験から、人は集中力を極限に高めたとき、因果論やデータ、経験値とは無関係に、直感的に高い精度で未来の情報を得ることができるのではないかと考えるそうです。その直感とはどのように説明できるのだろう、どのようにカウンセリングに活かすことができるのだろうという問いに連なる、大変興味深くてわくわくするようなお話でした。
仕事でストレスが溜まったような時に、A Iと会話をしてストレスを解消する人もいるそうです。私は今年の忘年会の予約を取ろうとした際に、初めて音声A Iと会話する機会を得ました。あたかも人間と話すように音声A Iに希望日と人数を聞かれ、こちらが応答するとあっという間に予約完了のメールが届きました。なんともお手軽で、いかにも便利で、人件費もかからず効率的なやり方だと感心しました。
同時に、A Iはすでに生起した過去の情報をもとに最適解を出してしているということは、人間がA Iを使えば使うほど、私たちの未来は過去の繰り返しの中に収束してしまうのではないかという危機感も覚えます。
トップアスリートは、一つ一つのパフォーマンスを行うとき、自分自身と環境に対して感覚を研ぎ澄まし、その一回一回を過去とは異なる新しい状況ととらえて、ハイパフォーマンスを作り出すといいます。だからこそ、受け手にその時その場一回限りの「生もの」としての感動を呼び起こすことができるのです。ただし、常にそのようなメンタリティでいることはできませんし、その必要もありません。ハイパフォーマンスの土台となっている技術を定着させるための練習や訓練は、細かい動作の繰り返しでもあります。また、いつでも参照できる紋切り型があるからこそ、いざという勝負の時に心を解放し、安心して多くの新しい刺激を受け取ることもできるからです。
記憶、学習、データ、未来の予測、再現性といったA Iの得意分野は、人間にとって魅力があります。それらの分野でA Iが人間に到底及ばない能力を獲得してしまった今、人の心の中にはA Iコンプレックスが生まれてきているしれません。
A Iが誰にとっても身近になったご時世だからこそ、A Iを過小評価したり、逆に人間を過小評価したりせずに、人間だからこそできること、人間の能力や味わいや魅力がより明確になってくると、世の中がもっとおもしろくなってくるのではないでしょうか。
団子坂こころのカウンセリングルーム-KIKU-カウンセラー
臨床心理士 髙橋あすか
文京区千駄木にある心理相談室です。
「こころ」にまつわるお悩みやお困りごとがありましたらどうぞお気軽にご相談ください。
https://dango-kokoro.com
