団子坂とわたし
わたしは千駄木で生まれ育ち、祖父、またその上の代は、この地を生業の地として来ました。生まれてから高校を卒業するまでの実に18年間、同じ場所で町の移り変わりを見てきました。家の窓から団子坂を見下ろすのが大好きで、幼い頃は救急車の音、消防車の音がするたびに窓から落ちんばかりに身を乗り出して、外の風景を興味津々で見下ろしたものです。物心つく頃には、家の前の道路でよく遊んでいました。チョークで絵を描いたり、ボール遊びや縄跳び、当時は今ほど車の往来もなかったので、自宅の庭のように道路を占領して遊んでいました。台東区谷中で迷子になって通りすがりの方に助けられ、西日暮里の駅前交番に保護されたこともあります。須藤公園でセミ採りやザリガニ釣りに明け暮れ、友人が池に落ちたこともありました。お祭りの時期はまたまた家から団子坂を見下ろして、お神輿が通るのを楽しみに待ち、冬は火の用心、時に寒行の行脚と団扇太鼓の音を神聖な気持ちでドキドキしながら見ていました。冬に雪が積もった年には、坂でそり遊びをしたこともあります。18年間という年月は、子どもの脳と身体の発達にとって、生涯にわたる影響を与えるに充分過ぎる年月であり、この土地が自身のアイデンティティ形成に非常に大きな影響を与えたことは言うまでもありません。いつか自分もこの土地で、自分の仕事をしてみたいという想いが芽生えるのも必然的なことだったように思います。
時は経ち、大学で渡米。日本に帰国してから臨床心理士となり、10年ほど生活した後、香港に移住しても、頭の片隅には、いつか地元にカウンセリングルームを開きたいという想いを変わらずに持ち続けていました。そして今回、香港から帰国したタイミングで想いを形にする機会が訪れました。カウンセリングルーム立ち上げに賛同し、惜しみなく時間を割いて協力してくれる、優秀な同志が3人も居たことが開室を後押ししたことは言うまでもありません。
さて、今では耳にすることも多い「アイデンティティ」という言葉。心理学者であるエリクソンが唱えた人格発達理論の青年期における課題であり、正確には「エゴ・アイデンティティ(自我同一性)」と言います。自分のアイデンティティを聞かれ、すぐに答えられる人は少ないのではないでしょうか。「自分は何者か」、「人生の目的はなにか」、「自分の存在意義はなにか」など、生きていく中で多くの人が自分自身に問いかけ、またそれを追求するために目標や目的に向かい、形成や修正を繰り返しながら確立していくもの。どんな土地で生まれ育ったか、両親や兄弟姉妹、親戚、友人との関係、文化的背景、受けてきた教育など、生成要素はたくさんあり、そうした環境の中で自分が何を感じ、考え、選択してきたか、その全てがアイデンティティと言えるでしょう。このことを考えた時、わたし自身、まだまだアイデンティティ獲得の道半ばにおり、青年期の課題と向き合い続けているのだと感じるのです。わたしはこのカウンセリングルームをどう運営していきたいのか、このカウンセリングルームが人々にとってどういう場所であることを望むのか、このカウンセリングルームで働く仲間にとって如何に働きやすい場所にできるか…こうした質問に一つ一つ応えていくことが、自分自身の「存在意義」を試されているように感じています。
わたしはこの町が好きです。変わりゆく中で変わらない、下町ならではの温かさと、新しい文化との融合を楽しむことが出来ます。その中で日々感じる楽しみや発見を大切に、今日も団子坂を眺めたいと思います。「縁」と「ゆかり」。どちらかが欠けていたら、この場所での開室には至らなかったかもしれません。これから先、この団子坂でみなさまとの「縁」が広がることを祈って。
団⼦坂こころのカウンセリングルーム-KIKU-カウンセラー
臨床⼼理⼠ 河合まり絵
文京区千駄木にある心理相談室です。
「こころ」にまつわるお悩みやお困りごとがありましたらどうぞお気軽にご相談ください。
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