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【本編無料】覗いて確認します。【ショートショート】


よる、ふとんのなかでね。うえをみたらオニがこっちをみてたの。

たくさんいて、ずっとこっちをみてるの。

どんなっていわれてもわからないよ。おこってないし、わらってもないんだ。

でね、おしゃべりもできないからじっとみてたの。そしたらねちゃった。




「いや~すみません。まだよく分かんなくて……毎回確認してもらって本当にすみません。」

「まあ、まだ新人だからしょうがないね。」


俺は3か月前、新しい仕事を始めた。転職した訳ではなく他の部署の仕事が自分の部署に回ってきたのだ。どうやら誰かが産休に入り、手が回らないから1人貸してほしいということだった。

その話が回ってきたとき、まず業務内容よりも勤務時間が夜になると教えられた。俺は朝起きるのが苦手だ。どんなに頑張っても月に何回かは遅刻してしまう。一人暮らしで昼夜逆転しようとも迷惑をかける人はいない。そんな状況を周りも知っていて自然と俺が担当することになった。

担当が俺に決まってから別室で仕事内容が明かされた。それは各家庭の天井に繋がった大きな穴を覗き、毎晩、子供がちゃんと寝ているかチェックする仕事だった。どうやらこの仕事は公になってはいけないらしい。秘密保持なんたらとかいう書類にサインを書かされた。

なぜわざわざ子供が寝ているか確認しなければいけないのか。この仕事を始めたとき、先輩に聞いたがよく分からない様子だった。先輩も上からの指示で仕方なくやっているのだろう。分かったところで仕事内容は変わらないしそれ以降は気にしないことにした。

そもその俺は今の会社に満足していない。どうでもいいのだ。本当なら隣の立派なビルに入っているIT系の大手企業で働くはずだった。しかし、就職に失敗した俺はどうしても無職だけは避けたくて仕方なくこの会社に入社した。そして子供を毎晩見る謎の仕事に辿り着いた。人生設計はめちゃくちゃだ。

「最近どう?慣れてきた?」

ふと携帯を確認すると同じ部署の同僚からLINEが来ていた。どうやら奇妙な仕事をしているという噂を聞きつけ、仕事内容を聞きたい様子だった。あいつはいつもそうだ。何でも知りたがる。

「まあ、だいぶね。」

適当にLINEを打って返信した。

しかしこれは嘘である。全然慣れていない。

俺は最近、寝ているのか起きているのか分からない子に悩まされているのだ。チェックシートにチェックを入れるためにはきちんと寝ていることを確認しなくてはいけない。

3か月この仕事を続けているが、目が開いているような開いていないような、白目のような、なんというか「寝てるのか?」と不安になる子が何人もいる。さらに俺を見て泣く子がいる一方で泣かない子もいるのが非常に厄介だ。泣いてくれれば寝ていないことがすぐに分かる。後回しにできるのに。

一度、どうせ寝てるだろと思って適当にチェックしたら寝ていなかったらしく怒られた。しかも書面でだ。会社に着いたら机の上に茶封筒が置かれていた。中にはいかにも賢そうな文章が並んでいて目をしかめた。俺はなんでバレたのか誰に怒られたのか未だに分かっていない。それから寝ているかどうか分からない時は、先輩に相談してから判断している。

要注意リストに入っている子供は自分が見て、先輩が見て、さらに他の先輩が見て、という厳重なチェック体制をとっている。こんな厳重に確認する必要があるのかと一度先輩に聞いてみたが「給料がもらえるなら何でもいいだろ」と言われてしまいそれっきりだ。先輩はもうどうでもよくなっているのだろう。

そのとき、先輩から「昔はもっと大変だったらしい」という話を聞いた。今はAIが最初にチェックし最終確認として我々がチェックしている。しかし、以前は恐る恐る穴を覗き、子供が寝ている確認していたらしい。ゆっくり覗くのはもし子供が寝ていなかった場合、穴から見えた顔に驚いて泣いてしまうからだそうだ。

しかし今だってそんなスムーズに作業ができる訳ではない。AIの精度がまだまだ低いのだ。AIが寝ていると判定した子が寝ていないこともよくある。AIの判断を信頼して勢いよく穴を覗けばすごい音量の声が耳に雪崩れ込んでくる。そして、指を刺される。俺は「あっ、やべっ」と急いで首をひっこめることしかできない。

そして穴の端の方からそっと覗く。そのとき見える親は大抵大きなため息をついている。親も疲れているのだろう。申し訳ないという気持ちが胃がキリキリしてくる。

子供の指差した先をみて「目に見えないものがこの子には見えている」「得体のしれないものがいるんだ」という恐怖の顔をする親もいる。

中にはスピリチュアルな能力があるのかもと思い、神童を授かった気になっている親もいた。非常に申し訳ない。あなたの子供が寝ていないからです。

あと厄介なのが飼い犬だ。あいつらは正義感を振りかざしてガンガン吠えてくる。なんなら遊んでくれると勘違いしたバカ犬もいた。反対に飼い猫はほとんど興味を示さない。寝ている体勢から顔だけを挙げ、じっとこちらを見てふーんと鼻息を立てる。そしてそのまま、また寝るのだ。

子供にもさまざまなタイプが存在する。俺を見て泣く子がいる一方で明らかにこちらを見ているのに泣かない子もいるのだ。じっとこちらを見ている。何を考えているのか俺には分からない。仕事を始めたばかりは何を考えているのか気になったが、子供に直接聞けるわけでもないので考えるのを辞めた。今は流れ作業で確認していくだけだ。

ただ、日に日に成長していく子供を見るのはちょっとうれしい。始めて3か月ほどなのに子供の成長とは早いものだ。他人の子供だがほほえましく感じる。

昨日、先輩に子供が10歳になるとチェックはいらない言われた時、俺は寂しいと感じた。毎晩見ていた子供の顔を見られなくなる。布団に対して身体の面積がどんどん増えていく子供の姿が見られなくなると考えると胸の奥のあたりがキューーと鳴った。

先輩にそんな話をすると「まあ、感情移入しないことが大切だな」というアドバイスをもらった。感情移入するつもりじゃなくても毎日見ているとどうしても情が湧いてしまう。0歳の頃から10年間という長い月日を静かに並走するのだ。

今日は新しい子供がリストに入ってきた。この子の成長を俺は10年間見ていくのだ。10年後、俺はどんな感情を抱くのだろうか。少し楽しみな気持ちもあるが、今の低賃金では続けられないとも思った。

俺はいつまでこの仕事を続けているのだろうか。




そういえば、いつの間にかオニのような顔を見なくなった。

布団に入り、目を開けたままでいると急に顔が現れたのは何だったのだろうか。今一度布団の中でじっと天井を見つめてみるが、そこにはなにもない。なんだか分からないが不思議な気持ちになったのを覚えている。夢だろうか。僕は少し昔のことを考えて静かに目を閉じた。

すると突然、横で寝ていた息子が大きな声で泣きだした。まだ上手く動かせない手を天井に向けている。何が見えているのだろうか。

かすかに「あっ、やべっ」という声が聞こえたような気がした。


あとがき

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