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【本編無料】曲がり角で立ち話【ショートショート】

「”話したい”と”話すことがある“って違うじゃん。」

いつもの帰り道、角を曲がろうとした瞬間、誰かの声がして私は足を止めた。このまま曲がったら鉢合わせしてしまう。中途半端に知ってる人だったら気まずい。

「でも話したいだけで話せる人ってなかなかいなくて……友達ならくだらない話でもなんでもできるけどさ。好きな人だとなんだコイツって感じじゃんね。」

どうやら声の主は立ち話をしている。誰が話しているのか見つからないようにゆっくり角から顔を出した。今井だ。先月転校してきたクラスメイト。目立たないタイプであまり喋っているのを見たことがない。いまいちどんな人物なのか分からない。でもそのミステリアスさが良いと一部の女子の人気を集めている。

「恋とかそう言うのじゃなくて、普通に話してみたいだけで、いや、無理だって、話したいだけなんて言えるわけないじゃん。」

私は今井が誰と話しているのかじっと目を凝らした。しかし、角から少し顔を出した程度では話し相手が誰なのか分からない。いや、そもそも人の姿を確認できなかった。相手が見えない。家の敷地内から話しているのかと思った。だがその家には気難しいお爺さんが一人で暮らしているはず。今井がお爺さんと恋バナするなんて思えないし第一、お爺さんが誰かと話しているところを見たことがない。

しばらくすると今井は「じゃあ、また。」と帰って行った。道を歩いて行ったのは今井だけだった。ということは今井が「また。」と言った相手はあの家の住人に違いない。あの気難しいと評判のお爺さん?そんなバカな。


次の日も今井は何やら話していた。また私は曲がり角に身を潜めて静かに話を聞く。いや、聞くつもりはないのだ。気づかないふりをして通り過ぎるのも遠回りをするのも面倒だった。ただそれだけ。

「好きか嫌いかで言ったらそりゃ好きさ。でも絶対に付き合いたいかって言われたら難しいよ。俺よりもっと良い人がいるだろうしさ。」

どうやら今日も恋バナだ。

「いや、そりゃ誰かに取られたらショックだよ。どうしようもないクズ男だったら俺にしろよって言えるけどさぁ。彼女が選んだ人でしょ。絶対に良い人じゃん。ね〜。でしょ〜。」

今井は誰かに片思いをしているということはわかった。ただ、会話が成立しているのに聞こえてくるのは今井の声だけ。ただでさえあまり喋らない今井が声の聞こえない相手と喋っている。不思議な空間だった。

今井が「じゃあ、また。」と離れてから少し待って家の前に足を運ぶ。もしかしたらお爺さんが出てきてしまうかもしれないと少しそわそわした。今まで気にせず通り過ぎていたその場所をじっくり見ると、そこには小さな植木鉢が4つ。名前の知らない赤い花が咲いていた。その横には、黄色い帽子をかぶった小人の置物と小ぶりなシーサーが置かれていただけだった。沖縄でもないのにシーサーなんて変なの。

家の前をじっと見たところで謎が解けるはずもなく、ただ時間だけが過ぎて行く。気難しいお爺さんが出て来ても困るので足早にその場を後にした。


数日後、またあの場所で今井が喋っていた。

「俺さ、やっぱり向いていないかもなって。人間って難しいや。考えることが多すぎるよ。彼女に俺は釣り合わない気がしてきてさ、いや、元々釣り合うとか思ってないよ。でもやっぱり作りが違うというか。」

いつものように今井は恋バナをしている。そんなに話すことがあるのか不思議だった。だってあれから数週間経っているのに話が全く進展していないのだ。今井はあれからずっと好きな人と距離を縮められないでいる。

「まあ、そうだね。えっ、セッ……いや、したいかと言われればしたいかもしれないけど、ただどんな感じにするのかが気になるだけかもしれない。その相手が俺だったらいいな、というか……」

最後の方が声が小さくて何を言っているのか聞き取れなかった。前と同じように、「じゃあ、また。」と言って帰った今井を見送り、家の前で少し立ち止まる。そういえば、今井が「じゃあ、また。」と言った後、家のドアが開く音を聞いていない。相手はどこに?

不思議に思ってうーんと唸ると小ぶりなシーサーと目が合った。辺りを見回してもシーサーは1匹しかない。シーサーは2匹で1つのはず……そんなことを思いながらボーっと眺めた。寂しそうだと言われればそう見える。けれど、1匹で家を守っていると言われればそう見えないこともなかった。

「もう1匹のシーサーはどこに行ったの?」

私はつい、シーサーに話しかけた。

「人間になったよ。」

ビクッとして横を向くと今井がいた。驚きと恥ずかしさで視線が地面の色んなところを走る。シーサーに気を取られて気づかなかった。

「俺、シーサーなんだよね。この子の隣にいた。1匹しかいない理由は俺がここにいるから。




な〜んて、冗談だよ。盗まれたか割れちゃったかじゃないかな?」

今井はふふっと笑い、小ぶりなシーサーを撫でた。初めて今井と話した。ミステリアスな人というより変な人だ。「いつもここで誰と話しているの?」と聞こうと思ったが、盗み聞きがバレるのは困る。そっと心にしまった。

それからも度々、今井が話している姿を見るが未だに誰と話しているのか分からない。分かっているのは今井の恋がちっとも進展していないことぐらいだ。



あとがき

雑談って難しい。無難に天気の話なんかしたりして……正直、天気の話が好きな人なんていないじゃないですか。

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