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今日を終わらせたくない人たち|旅館のゲームセンターの話

MOON side episode No.10

温泉に入ったあと、
部屋へ戻ればいいだけなのに、
なぜか少しだけ寄ってしまう場所がある。

旅館のゲームセンターは、
そんな場所だった。

地方の古い旅館の一階奥。

薄暗い通路を抜けると、
急にカラフルな光が見えてくる。

少し色褪せたクレーンゲーム。
古いメダルゲーム。
端の方で光り続けるレースゲーム。

天井の低いゲームセンターには、
少し古い電子音と、
昔から変わらないBGMが流れていた。

「こちらのゲームもおすすめです」

機械音声だけが、
何度も静かな店内に響いている。

ゲーム音は大きい。

でも、
決して賑やかではなかった。

浴衣姿のカップル。
小さな子どもを連れた夫婦。
年齢の違う子どもたちだけで来ているグループ。

みんな、
“少しだけ”遊んでいる。

景品のぬいぐるみは少し日に焼けていて、
クレーンゲームのガラスには、
長い時間の細かい傷が残っていた。

スリッパの音だけが、
ゲーム音に混ざって小さく響く。

旅館のスタッフは、
売店と兼任なのか、
時々カウンターの奥から顔を出している。

メダルを補充し、
また奥へ戻っていく。

深夜が近づくにつれて、
人は少しずつ減っていった。

ゲームセンターというより、
“眠れない人が少しだけ立ち寄る場所”
のようだった。

クレーンゲームのライトだけが、
静かな店内をぼんやり照らしている。

閉館時間になると、
一台ずつゲーム機の電源が落ちていく。

「ピッ」

「ピッ」

一台、
また一台と静かになる。

さっきまで鳴っていたBGMも、
電子音も、
少しずつ止まっていく。

最後の一台の電源が落ちたとき、
急に静けさだけが強くなった。

スタッフの若い男性は、
ゲーム機に一つずつ網をかけ、
静かにスペースを閉じていく。

そして、
バックヤードの自販機で買った缶コーヒーを開け、
小さく息を吐く。

その吐息だけが、
閉館後の静かなゲームセンターに残っていた。

旅館のゲームセンターには、
“もう少しだけ今日の楽しい時間を終わらせたくない人”が、
集まっていたのかもしれない。

温泉に入って、
ご飯を食べて、
部屋へ戻れば一日は終わる。

でも、その前に、
ほんの少しだけ遠回りするように、
みんなあの場所へ立ち寄っていたのだと思う。

ネオンの光とゲームの音が消えたあと、
そこには、
“今日が終わる直前の空気”だけが静かに残っていた。


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