日本をいまいちど洗濯したい人|桂浜の話
MOON side episode|旅の途中 No.10
高知県|桂浜
海の向こうを見ている人がいる。
何が見えるのだろう。
夕暮れの桂浜で、
そんなことを考える。
目の前には太平洋が広がっている。
波は絶え間なく岸へ打ち寄せ、
白い飛沫を残しては引いていく。
海から吹く風は思ったより強く、
缶コーヒーを持つ手にも潮の匂いが届いていた。
◇
砂浜を歩く。
観光客らしき夫婦が、
波打ち際で立ち止まっている。
女性はスマートフォンを海へ向け、
男性は黙ったまま水平線を見ていた。
修学旅行生たちは、
さっきまで賑やかだったのに、
海の前へ来ると少し静かになる。
外国人観光客は、
何枚も写真を撮りながら坂を上っていく。
みんな同じ場所へ向かっていた。
◇
坂の上には、
海を見つめる一人の男が立っている。
その姿を見上げながら、
人々は足を止める。
写真を撮る人。
説明板を読む人。
ただ黙って見上げる人。
みんな同じ像を見ている。
けれど、
見えているものは
少しずつ違うのかもしれない。
ある人は歴史を。
ある人は旅を。
ある人は挑戦する姿を。
私は缶コーヒーを口に運びながら、
その横顔を見上げていた。
◇
海は広かった。
どこまでも続いているように見える。
風が吹く。
波が寄せる。
雲が流れる。
像はびくともしない。
だけど、
見ているこちらの方が少しそわそわする。
海の向こうには何があるのだろう。
そんなことを考えてしまう。
◇
缶コーヒーは、
いつの間にか空になっていた。
夕日が少しずつ海へ近づいていく。
観光客たちは帰り始める。
修学旅行生の姿も見えなくなった。
けれど、
波の音だけは変わらない。
高知県桂浜。
海の向こうを見ている人がいる。
そして今日もまた、
その視線の先を見ようとする人たちが、
静かに足を止める。
何十年経っても。
何百万人が訪れても。
海は変わらずそこにある。
波の音だけが響いていた。
その先に何があったのかは分からない。
それでも人は、
誰かが見ていた未来を見ようとする。
桂浜の海は今日も、
誰かの「その先」へ続いてゆく。
了
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