「走らないで!」と言うと、なぜ余計に走るのか? 元教員×凸凹児父がおすすめする、脳に届く「肯定語」変換
「コラ! 廊下を走らない!」
「大きな声を出さない!」
「そこ、触らないで!」
毎日、こんな言葉を100回くらい叫んでいませんか?
そして、100回言っても、
子どもはまた走り、叫び、触りますよね。
「何度言ったらわかるの!」
と怒鳴りたくなる気持ち、
痛いほどわかります。
私も教員時代、そして父として、
何度このループに陥ったか分かりません。
でも、実はこれ、子どもが悪いのでも、
親の言い方が怖いからでもないんです。
「脳の仕組み上、その指示は物理的に届いていない」のです。
今日は、なぜ「禁止命令」が通じないのか。
そして、どう言い換えれば彼らの体が動くのか。
元教員で発達障害児の父である私が、現場で使っている
「肯定語変換」の技術をお伝えします。
きれいごとは抜きです。
明日からの「無駄な怒鳴り声」を減らすための、
実践的な作戦会議をしましょう。
「ピンクの象」を想像しないでください
いきなりですが、実験です。
今から私が言うことを、絶対に実行してください。
「ピンク色の象を、想像しないでください」
……いかがでしょうか?
今、あなたの頭の中に、
鮮やかなピンク色の象が浮かびませんでしたか?
「想像するな」と言われたのに、
脳は勝手に「想像」してしまったはずです。
これが、人間の脳の仕組みです。
脳は「〜しない(否定形)」を
直接イメージすることができません。
「走らない」と言われると、
脳はまず「走っている自分」をイメージし、
その後に理性の力で「あ、これをしてはいけないんだな」と
打ち消し線を引く、という高度な処理を行います。
特に、衝動性が高いADHDタイプや、
言葉を文字通り受け取るASDタイプの
子どもたちにとって、
この「打ち消し処理」は非常に負荷が高い作業です。
その結果、「走る」というイメージだけが脳に残り、
「走らないで!」と言えば言うほど、
余計に走りたくなってしまう(走るイメージが強化される)という、
親にとっては悪夢のような現象が起きます。
これが、「何度言っても直らない」の正体です。
居酒屋のトイレから学ぶ「人を動かす」心理学
この法則は、大人に対しても同じです。
皆さんは、居酒屋やコンビニのトイレで、
こんな張り紙を見たことがありませんか?
A:「トイレを汚さないでください」
B:「いつもきれいに使っていただき、ありがとうございます」
どちらのトイレの方が、きれいに使われていると思いますか?
行動経済学などの実験でも明らかになっていますが、
圧倒的に「B」です。
なぜでしょうか?
Aの「汚さないで」は、
「汚す」というネガティブなイメージを連想させます。
一方、Bは感謝の言葉とともに、
暗に「きれいに使う」という具体的な
「あるべき姿(正解の行動)」をイメージさせています。
人間は、「ダメなこと(禁止)」を言われるよりも、
「どうすればいいか(肯定的な行動)」を示された方が、
圧倒的に動きやすいのです。
子育ても全く同じです。
「走らないで!(禁止)」は、
子どもにとって「じゃあ、どうすればいいの?」
という答えが含まれていない、
不親切な指示なのです。
明日から使える!「肯定語」脳内翻訳リスト
では、具体的にどう声をかければいいのでしょうか?
ポイントは、
「禁止(〜しない)」を「代替行動(〜する)」に翻訳することです。
私が教員時代から使っている、
代表的な「翻訳リスト」を紹介します。
親が言いたいこと(否定語)→ 脳内翻訳した声かけ(肯定語)
「廊下を走らない!」→「廊下は歩きます(忍者歩きで!)」
「大きな声を出さない!」→「アリさんの声でお話ししよう」
「叩いちゃダメ!」→「口(言葉)で伝えます」「手は横だよ」
「汚さないで食べて!」→「お皿の上で食べようね」
「ちゃんとしなさい!」→「背中をピンとします」「前を見ます」
翻訳のコツ:「カメラで撮れるかどうか」
翻訳に迷った時は、
「その言葉は、ビデオカメラで撮影できる行動か?」
と自問してみてください。
「走らない姿」は撮影できません
(止まっているのか、座っているのか、寝ているのか分からないから)。「歩いている姿」なら、撮影できます。
「ちゃんとしている姿」は撮影できません
(人によって定義が違うから)。「背筋を伸ばして座っている姿」なら、撮影できます。
「カメラに映る具体的な動作」で指示を出す。
これだけで、伝わり方は劇的に変わります。
それでも「ダメ!」と言いたくなる親御さんへ
ここまで偉そうに書きましたが、私も人間です。
子どもが道路に飛び出しそうなとき、
牛乳をこぼしたとき、
とっさに「ダメ!」「あー!何してんの!」と
叫んでしまうことはあります。
そんなとき、
「ああ、また否定語を使ってしまった…」と
自己嫌悪になる必要はありません。
親だって完璧な翻訳機ではないのです。
もし「走らない!」と言ってしまったら、
その直後に「歩こうね」と付け足せばいいだけです。
「騒がない!」と怒鳴ってしまったら、
深呼吸して「小さな声だよ」と言い直せばいいだけです。
大事なのは、禁止だけで終わらせず、
最後に「正解の行動」をイメージさせてあげること。
これを繰り返すうちに、
子ども自身も
「走りたい…いや、ここは歩くんだ」と、
自分で脳内変換できるようになっていきます。
最後に
「〜しない」という言葉を、「〜する」に変える。
たったこれだけのことですが、
家庭内の空気は驚くほど変わります。
それは子どもが変わったからではありません。
親である私たちが、
子どもに伝わる「共通言語」を手に入れたからです。
今日から一つだけでいいので、試してみてください。
「走らない!」と言いそうになったら、
グッと飲み込んで「歩くよ!」と言ってみる。
そのときのお子さんの反応が、
きっと答えをくれるはずです。
