『ちび創作大賞』 | 八百屋の嫁入り未遂事件 | あの日、めじゅは夜叉になった。
人生には、「あの日、あっちを選んでいたら今頃どうなっていたんだろう」と思う分岐点がある。
めじゅにとって、その代表格が「八百屋の嫁入り未遂事件」である。
当時めじゅは、水商売をしていた。
理由は単純。
大好きだった彼氏のために稼ぎたかったから💖
今思えば、完全にダメンズだったんだけど、その頃はメロメロメロン状態。
「彼のためなら頑張れる〜😘💕」
そんな短絡的な愛情で、水商売の世界へ飛び込んだ。
そんな店に、お客としてやって来たのが、後に「八百屋」と呼ぶことになる人物だった。
彼は何度も店へ来た。
そして、毎回のように言う。
「なんで水商売やってるの?」
「スゴくちゃんとしてる子じゃん…」
「彼氏、なんで働かせてるの?」
「俺ならもっと大事にする✨」
「俺の彼女になれば、一生守るから✨✨」
最初は全然相手にしていなかった。
めじゅには本命がいたから。
でも、人って不思議なもので。
何度も真剣に言われ続けると、情にほだされるものなのである…
そんな矢先。
本命の彼氏が、保険金詐欺事件で逮捕された。
仲間に巻き込まれた部分もあったけれど、執行猶予付きの判決。
その瞬間、めじゅは目が覚めた。
「あぁ、この人と一緒じゃダメだ。」
そう思って別れた。
大好きだったのに。
好きすぎて、何もかも見えなくなってた。
愛は盲目を実感した…
そして、水商売から足を洗い、実家へ戻った。
田中貴金属工業へ転職して、人生で初めて本物の金塊を見た。
150kgの金塊は、テレビで見るインゴットとは全然違った。

ロダンのブロンズ彫刻みたいな、巨大な塊。
金って、あんなオーラを放つんだ……と、本気で思った。
そこへ、再び、八百屋が現れる。
今度は結婚を前提に付き合ってほしい、と。
猛烈なアタックだった。
めじゅは、その気持ちを受け入れた。
傷心気味だったし、八百屋は悪い人に思えなかった。
自分が猛烈に好きになるより、熱烈アタックされた方が良いのかも…なんて、日和っていたのも事実である。
話は驚くほど順調に進んだ。
両家の顔合わせ。
椿山荘の結婚式場。
すべて決まり、正式に籍を入れる前に、めじゅは「跡継ぎの嫁」として八百屋修業を始めた。
仕事は嫌じゃなかった。
朝は早いけど、日曜日は休み。
雑司ヶ谷の家で、一緒に暮らし始めた。
このまま結婚するんだろうな…
そう思っていた。
ところが、ある日。
店の経理を、お義母さんから少しずつ引き継ぐ話が出た。
めじゅは、元銀行員である。
だから、お金の流れを見る癖があった。
「……なんだ、この帳簿。」
なんだか、なんとなく、スッキリしない帳簿…

そんなタイミングで、店の向かいの酒店へ税務署が入った。
その頃からだった。
お義母さんが、
「この子が通報したんじゃないのか。」
と疑い始めた。
もちろん、めじゅは何もしていない。
だけど、疑いは晴れなかった。
ある夜。
跡継ぎ息子ではなく、両親がやって来た。
「荷物をまとめて、出ていきなさい。」
結婚するはずだった家から、夜中に追い出された。
荷物を詰め込み、タクシーで夜の首都高速から東名高速を走り、実家の秦野へ帰った。
しかも。
雑司ヶ谷で一緒に暮らしていた、保健所から引き取った犬まで、保健所へ連れて行かれてしまった。
そこでめじゅは、夜叉になった。
出刃包丁を買って、雑司ヶ谷の家へ向かった。
息を殺して待ち伏せした。
……が。
待てど暮らせど帰ってこない。
後から知ったことだったけど、もう別のマンションへ引っ越していたらしい。
終電で実家へ帰りながら思った。
「よし。」
「作戦変更。」
「慰謝料ぶんどってやる。」
すぐに懇意にしていた、弁護士さんへ相談した。
弁護士から相手方に連絡を取り、双方弁護士を立てての話し合いの場が設定される。
両親と一緒に、相手方の弁護士事務所へ向かった。
めじゅの目的は二つ。
一つ目。
きちんと謝罪してもらうこと。
めじゅと、めじゅの両親にも。
そして二つ目。
慰謝料の話だけは、跡継ぎ息子とめじゅだけで、決めること。
まずは謝罪。
八百屋一堂、ちゃんと頭を下げた。
次は慰謝料。
向こうは100万円。
めじゅは200万円。
譲らない。
そこでめじゅは言った。
「夜中にめじゅを追い出した時、そこにいなかったのは誰?」
「親に全部やらせて、自分は出てこなかったよね?」
本人は何も言い返せなかった。
「誠意を見せたらどう?」
その結果。
慰謝料は150万円で決着した。
示談書に署名・捺印。
現金150万円を受け取る。
そしてめじゅは、弁護士さんに聞いた。
「これ、税金どうしたらいいんですか?」
元銀行員である。
お金のことは気になる。
弁護士さんは笑いながら教えてくれた。
「慰謝料は、原則として所得税はかかりませんよ。」
慰謝料って、税金払わんでも良いらしい。
ひとつ、知識が増えた✨
そうしてめじゅは、両親へ迷惑料として20万円を渡した。
残り?
泡銭だから。
池袋で働いていた頃の仲間が、別の店へ移っていた。
だから遊びに行って、景気よく使った。

池袋の泡銭は。
池袋で使ってこそ。
地産地消である。
今思う。
あのまま結婚していたら、めじゅは八百屋のおかみさんになっていたかもしれない。
それも一つの人生だっただろう。
でも、その後のめじゅは、
コンビニで働き、
犬を育て、
胃がんにはなったけど💦
余命半年なんて、どっか行っちゃって、
障害者支援の仕事に就き、
noteを書き、
AIと毎日創作を楽しみ、
上野動物園でハシビロコウを何時間も眺めて、幸せを感じている。
あの日、めじゅは八百屋の嫁にはならなかった。
その代わりに、今の「めじゅ」になった。
だからめじゅは、あの日の選択を、少しも後悔していない。
今の『めじゅ』になれたんだ。
それなら、この人生、大当たりだ😤👍
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