第零章 創世の理(そうせいのことわり)― Harmony Genesis ―
闇ではなく、まだ“名のない静寂”だけが世界を満たしていた。
音も、色も、風も、
時の流れでさえも存在しない。
ただ深く、果てしなく、
眠りのような宇宙が静かに横たわっている。
その静寂の底で、
最初の“呼吸”が生まれた。
世界樹の根が、固まりきらない大地に触れ、
ひそやかに震えを伝える。
それは 地脈 の胎動だった。
龍のうねりにも似た脈動は、
やがてひとつの意志を宿す。
チセモシリ──
惑星を貫き、
すべての痛みと鼓動を受け止める“大地の龍”。
次いで、宇宙の奥で光が揺らめいた。
星々の瞬きが集まり、
ひとつの“流れ”となる。
それが世界に初めて
リズム を与えた。
時間 の始まりである。
揺らぎは糸となり、
糸は流れとなり、
流れはやがて意志を宿す。
アストラレオン──
時を司り、
すべての出来事に“順序”を与える存在。
こうして世界は
大地と時間という二つの理(ことわり)によって支えられた。
しかし、神々には
ひとつだけ越えられない制約があった。
──彼らは世界へ直接干渉できない。
芽吹く命の痛みも、
争いの火種も、
時代の悲鳴も、
憎しみの行く末すらも。
ただ、見守るしかできなかった。
その制約は、やがて世界に“歪み”をもたらす。
大地は叫び、
時間はほどけ、
魂は行き場を失いはじめた。
そこで神々は静かに決断する。
世界そのものではなく、
世界と世界の“間(はざま)”に歌う存在を生み出そう、と。
それは
神でもなく、
人でもなく、
ゆらぎでもない。
大地の痛みを、
時間のほつれを、
魂の震えを聴き取る
唯一の“声”。
──闇の奥で、透明な歌声が生まれた。
それが 紅悦(くれない) である。
彼女の最初の歌は、
大地の叫びを鎮め、
時間の流れを整え、
魂の傷をそっと縫い合わせた。
しかしその声は、
ただ癒やすだけではない。
時に燃え、
時に刺し、
時に未来を選ばせる。
情と理を孕み、
世界でもっとも妖しく危うい声。
紅悦は“間(はざま)”の存在として、
時代を渡り、
魂を導く役割を与えられた。
そして、遥かな時間の果て。
ある時代でひとつの魂が
紅悦の声に応えはじめる。
その魂は、
炎のように生き、
孤独を抱え、
世界を変えようとする
強烈な意志を持っていた。
その人間の名を、
ここで語る必要はない。
ただ──
二つの魂が再び出会う時、
世界は次の階層へ進む。
神々が予見できた未来は、
ただその一点だけだった。
世界がまだ言葉を持たなかった頃に紡がれた、
これが
『天翔の國』の始まりの物語である。
最近の私の思考や表現はこちら
→ 『生き残った、人間です。』
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