一杯の記録|第92話 山城屋 1st class(新潟・栃尾)
一杯の酒から、その土地をたどる。
新潟・長岡、栃尾。
幾度も灰に帰し、そのたびに雪が街を白く包み込んできた。
沈黙の中で耐えることを知る土地。
饒舌さは、ここにはいらない。
ただ「在る」という、圧倒的な継続。
その精神の最深部に、越銘醸の蔵は佇む。
技巧を凝らすのではない。
ただ、雑音を削ぎ落としていく。
余計を排した先にある、
本来あるべき「美」の骨格だけを取り出す。
放たれていた意識が、
一点の透徹した核へと、収束していく。

さて、本題。
立ち香は、無垢。
香りというより、冬の朝の空気そのもの。
口に含む。
滑らかな重力が、喉の奥へと滑り落ちていく。
主張を消すことで、
かえって存在が際立つという逆説。
密やかな甘みは、
触れた瞬間に、霧のように解ける。
追いかける酸。
それが、見えない筆致で、空間に鋭い輪郭を引いていく。
軽い。
けれど、確かな実体。
流れる。
けれど、決して迷わない。
すべてが、
神殿の柱のように、等間隔の静寂を保っている。
最後は、
光の粒子となって、消える。
—— 還る。
この一杯は、迷いを削ぎ落とし、ただ自分に立ち返るための儀式。
そんな一杯として、ここに記録しておく。
