一杯の記録|第99話 手取川 酒魂 純米大吟醸 無濾過原酒(石川・白山)
一杯の酒から、その土地をたどる。
昂ぶった鼓動を、静かに鎮める。
百を前に求めたのは、
新しい驚きではなく、揺るぎない「原点」。
なぜ、書き続けてきたのか。
答えは、いつもこの一滴に湛えられている。
石川、白山。
吉田酒造店が守り抜く、ひたむきな誠実。
雪解け水が大地に磨かれるように、
この酒もまた、ただ実直に醸されている。
「酒魂」という、重き名。
その本質は、どこまでも優しく、謙虚だ。
飾る必要はない。
在るがままの自分を、ただ写し出す。

さて、本題。
立ち香は、清冽。
炊き立ての米のような、気高い香り。
迷いを消し去る、透明な風。
口に含む。
もはや、言葉さえも邪魔になる。
それは、還流。
無濾過原酒の、力強くもなめらかな旨み。
一本の筋となり、私の核へ真っ直ぐに届く。
ごまかしのない、素朴な品格。
ようやく呼吸が、
この一滴の波長と、完全に重なり合う。
やがて、
水の記憶だけを残し、穏やかに溶けていく。
あとに残るのは、深い慈しみ。
ここからまた、一歩ずつ。
覚悟が静かに固まる。
—— 還る。
この一杯は、
百話の先へ進むための、揺るぎない原点。
そんな一杯として、ここに記録しておく。
