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一杯の記録|第78話 醸し人九平次 うすにごり 黒田庄産 山田錦(愛知・名古屋 / 兵庫・黒田庄)

一杯の酒から、その土地をたどる。

兵庫・黒田庄。
九平次が自ら泥にまみれ、米を見守る聖域。

このうすにごりは、
完成された美学に、
あえて、わずかな揺らぎを残している。

澱が舞う、淡い白。
それは、
光を透かすレースのように、
酒の輪郭を、優しくぼかしていく。

さて、本題。

立ち香は、気高い。
メロンを思わせる果実感と、
雨上がりの土が混じり合う、複雑な気配。

口に含むと、
驚くほど、滑らか。

触れた瞬間、
それは、シルクが肌を滑るように、
重力を失い、身体へと馴染んでいく。

甘さは、控えめ。
上品な米の旨みが、
きめ細かな酸とともに、静かに押し寄せる。

おりがらみの、微かな麹感。
それが、
酒の境界線を、柔らかく溶かしていく。

フルーティな華やかさではない。
ここにあるのは、
どこまでも芳醇で、
どこまでもエレガントな、浸透の儀式。

最後は、
キリリと、鮮やかに。

——   まさに、一瞬の融解。

これは、溶け合う輪郭。
そんな一杯として記録しておく。

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