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一杯の記録|第76話 仙禽 純米大吟醸 朝日 火入(栃木・さくら)

一杯の酒から、その土地をたどる。

栃木・さくら。
水の気配が、やわらかく広がる土地だ。

せんきんは、
この地の水に、酒の輪郭を預けてきた。

足さない。飾らない。
「朝日」といういにしえの米を磨き、
その野生さえも、静寂へと変えていく。

整えながら、余白を残す。
極限まで削ぎ落とされた先に、
その一筋の光は、ある。

さて、本題。

立ち香は、静か。
ほとんど、動かない。

白桃のうぶ毛に触れるような、かすかな気配。

口に含むと、
冷たく、細い刺激。

触れて、すぐに消える。
一瞬だけ、メロンのような淡い蜜が、舌の上を滑る。

広がらない。留まらない。
それは、重力を持たない甘み。

薄いのではない。
あまりに透き通っているから、掴めない。

何も起きないようでいて、
肌の奥が、静かに熱を帯びる。

そのまま、
音もなく消えていく。

——  白を、飲んでいる。

削ぎ落とされた輪郭。
この酒は、そんな一杯はとして記録しておく。

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