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一杯の記録|第83話 尾瀬の雪どけ 純米大吟醸 新酒 うすにごり生(群馬・館林)

一杯の酒から、その土地をたどる。

群馬・館林。
赤城おろしが、乾いた音を立てて平野を削る。

厳しい冬の風が吹くこの地で、
龍神酒造の醸す酒は、
あえて、どこまでも優雅に、甘美に、咲き誇る。

抗うのではなく、
冬のその先にある、
眩いばかりの光を先取りするように。

緻密に計算された、
軽やかさという名の、高度な設計。

それは、
凍てついた心を溶かすために用意された、
一振りの春。

さて、本題。

立ち香は、気高く、華やか。
閉ざされていた感覚が、
その香りに触れた瞬間、ふわりと持ち上がる。

口に含むと、
あやういほど、滑らか。

霞のような、
細かな澱のテクスチャー。

それが舌の上で熱を得て、
一気に、
甘美な雫へと変わる。

甘みは、深い。
けれど、重力を持たない。

喉を通る瞬間に、
すべての緊張が、
春の奔流となって、ほどけ落ちていく。

最後は、
光の粒子となって消えるように、
すっと、切れる。

——ようやく、ほどけた。

これは、甘美な融解。

この酒は、そんな一杯として記録しておく。

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