一杯の記録|第93話 上喜元 純米吟醸 八反 生酛(山形・酒田)
一杯の酒から、その土地をたどる。
陽の光にほどけ、雪の静寂に還る。
その巡りの中で、ひそかに蠢くものがある。
山形、酒田。
凍てつく冬の底。
見えない命が、互いの体温を分かち合う。
酒田酒造が待つのは、その原始の爆発。
急がない。
ただ生酛という名の、濃密な沈黙を整える。
何かが生まれる直前の、湿り気。

さて、本題。
立ち香は、暗い。
静かに、深淵へと沈殿していく。
口に含む。
すぐには、正体を明かさない。
じわり、と。
喉の奥から、野生の熱がせり上がる。
重層的な、厚み。
乳酸が織りなす、滑らかな肌触り。
規則正しく時を刻む、拍動。
奥で、確かに命が打っている。
八反の凛とした青さが、
その熱を、品格へと昇華させる。
支えられている。
数えきれない、命の連鎖に。
やがて、
涼やかな風となって抜ける。
とどまらない。
けれど、消えもしない。
ただ、ここに在る。
—— 宿る。
この一杯は、生の根源を肯定するための儀式。
そんな一杯として、ここに記録しておく。
