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一杯の記録|第86話 みむろ杉 純米吟醸 山田穂(奈良・三輪)

一杯の酒から、その土地をたどる。

奈良・三輪。
神の宿る山は、静謐に濡れている。

高く舞い上がった視線は、
深い森に吸い込まれ、
ゆっくりと、地へと降りていく。

今西酒造の醸すみむろ杉は、
水の記憶そのもの。

透明。
けれど、空っぽではない。

研ぎ澄まされた、祈りの結晶。

鏡のような水面が、
今の自分を、静かに映し出している。

さて、本題。

立ち香は、清冽。
雨上がりの森が放つ、知的な冷気。

口に含むと、
しなやかに、絡みつく。

山田錦の母方、山田穂の抱擁。
それは、
深い慈しみを湛えた、大人の色香。

きゅっと、
繊細な酸が、背筋を正す。

乱れていた感覚が、
あるべき場所へと、整えられていく。

旨みは、凛としている。
水の美しさだけを、
そこに、残している。

とどまらない。
けれど、確かにそこにいる。

最後は、
雪が水に還るように、消える。

——   鎮まる。

この一杯は、
自分に立ち返る、清らかな祈り。
そんな一杯として、ここに記録しておく。

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