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一杯の記録|第109話 若駒 美山錦70 無濾過生原酒 無加圧採り(栃木・小山市)

一杯の酒から、その土地をたどる。

放たれた熱が、
ゆっくりと沈んでいく。

音は消え、余韻が残る。
その奥に、まだ触れていない柔らかさ。

栃木、小山。
乾いた光と、穏やかな風。
木の匂い。時間は急がない。

若駒酒造。
力を加えない、贅沢。
押さない。削らない。
自らの重みで滴るものを、そのまま。

さて、本題。

香りは、軽やかだ。
ライチ、あるいはマスカット。
淡い光を纏った、透明な気配。

口に、含む。

ほどける。
やわらかな輪郭。
微かな活性が、舌の上で跳ねる。

ひらく。
洋梨の瑞々しさ。

その奥に、ほんのりと、ミルキーな旨み。

寄り添う。
爽やかな酸が、全体を整える。
重くない。けれど、薄くもない。
削ぎ落とさない、米の素顔。

流れる。
するりと、抵抗なく。

残るのは、やさしい余白。
ほどけたまま、それでいい。

——    解く。

この一杯は、
強張った輪郭が、ほどけていく。
素のままの呼吸を、取り戻すための一滴。
そんな一杯として、ここに記録しておく。

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