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koreatterunokana
一杯の記録|第58話 雪の茅舎 秘伝山廃 純米吟醸生酒(秋田・由利本荘)
一杯の酒から、その土地をたどる。
秋田・由利本荘。
鳥海山の麓に広がる町だ。
冬は深く雪に閉ざされる。
その静けさの中で、
水は澄み、米はゆっくりと力を蓄える。
雪の茅舎を醸す齋彌酒造店の敷地には、
時をまとった建物が並ぶ。
洋館の面影を残す母屋。
時間だけが、静かにそこに立っている。
派手に誇らない。
けれど、確かな重みがある。
酒造りもまた、同じだ。
流行を追わない。
人の手を入れすぎない。
櫂を入れず、
酒が本来持つ力を、
静かに引き出していく。
急がない。
整えすぎない。
酒はここで、
自ら整うように、
ゆっくりと形になっていく。

さて、本題。
立ち香は、やわらかい。
華やかだが、強すぎない。
口に含むと、
豊かな旨みがふわりと広がる。
けれど、重くない。
瑞々しさを残したまま、
味わいがすっと伸びていく。
厚みはある。
それでも、濁らない。
透明な甘みが、
静かに奥へ流れていく。
山廃は、前に出ない。
けれど、
静謐な酸が、
酒の幅をそっと広げている。
余韻はやわらかい。
甘みが、ほんのり残る。
強く主張しない。
ただ、静かに続く。
この一杯は、
そんな“奥行きの山廃”として、ここに記録しておく。
