一杯の記録|第114話 英勲 無濾過生原酒 純米大吟醸(京都・伏見)
一杯の酒から、その土地をたどる。
濠川のせせらぎを、十石舟が静かに分かつ。
であい橋を吹き抜ける風が、
名残の桜を水面へと誘う。
京都、伏見。
歴史を刻む、齋藤酒造。
千年の都を潤す、豊かな水の記憶に満ちた道。

さて、本題。
抜栓。
静寂に、熟した米の香がほどける。
口に、含む。
驚くほどに、柔らかい。
絹が肌を滑るような、滑らかな出逢い。
満ちる。
円やかな甘み、底に潜む芯の重み。
決して媚びぬ、無濾過の矜持。
抜ける。
静かな余韻を残しながら、
太い骨格が、喉の奥を確かに通り過ぎる。
凪いでいる。
優美な表象の裏に、揺るぎない覚悟を見た。
柔らかな水が、意思を纏う。
そのしなやかな強さに、身を浸す。
—— 芯。
この一杯は、
静かな夜を、深く掘り下げるための音。
そんな一杯として、ここに記録しておく。
