一杯の記録|第117話 弥右衛門 純米吟醸(福島・喜多方)
一杯の酒から、その土地をたどる。
飯豊連峰の影を仰ぎ、喜多方へ。
大和川酒造店、江戸蔵。
見上げる天井に、長く、太い梁。
幾度もの厳しい冬を耐え抜いてきた木肌が、
圧倒的な沈黙をもって、そこに横たわる。
地の米、地の水、地の技術。
「郷酒」という、どこまでも実直な祈り。

さて、本題。
抜栓。
香は、穏やか。
どこまでも控えめに、ただ静かに佇む。
注ぐ。
清らかな水を思わせる、なめらかな滴。
口に、含む。
旨口にして、淡麗。
ふくよかな旨みが広がりながらも、
その輪郭は驚くほどに端正。
柔らかな湿り気のあとに訪れる、
かすかな苦みと、乾いた余韻。
抜ける。
淡い熱、そして、霧散。
凪いでいる。
一切の雑味を排した、潔い引き際。
語らずとも、すべては伝わる。
この静かな主張こそが、郷の誇り。
—— 紡。
この一杯は、
ただ、重なる時と風土を肌で感じるための音。
そんな一杯として、ここに記録しておく。
