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koreatterunokana
一杯の記録|第53話 幻舞 特別純米 山田錦 無濾過生原酒(長野・千曲)
一杯の酒から、その土地をたどる。
長野・信州新町。
千曲川がゆるやかに流れる町だ。
山に囲まれ、
季節は静かに巡る。
冬は凛と冷え、
春にはやわらかな光が差す。
この土地で、五百年近く。
酒を醸す酒千蔵野は、
急がない。
米と水に向き合い、
酒がほどける時間を待つ。
派手な造りではない。
けれど、
やさしさの奥に、
芯が静かに通っている。

さて、本題。
立ち上がりは、やわらかい。
香りは穏やかで、
どこか丸みを帯びている。
口に含むと、
密な甘みがすっと広がる。
甘いのに、重くない。
旨みはふくらむが、
押し出さない。
静かに、形を整えていく。
ほんのりとした酸が、
その輪郭を支える。
強くは主張しない。
けれど、
酒の流れを崩さない。
——ああ、やさしい。
静かに、ほどける。
派手ではない。
けれど、どこか安心する。
余韻は、やわらかく続く。
引きずらない。
ただ、そっと残る。
この一杯は、
そんな“やさしい余韻”として、ここに記録しておく。
