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koreatterunokana
一杯の記録|第52話 遊穂 純米酒(石川・羽咋)
一杯の酒から、その土地をたどる。
石川・羽咋。
海と山が迫るこの土地は、
空気にどこか湿り気がある。
遊穂を醸す御祖酒造は、
鼻をくすぐる香りで惹きつける酒を求めない。
能登の飯米と酒米を合わせ、
蔵の中で静かに時を寝かせ、
米の旨みを底から引き出す。
そこに、凛とした酸で骨格を整える。
派手に広がらない。
けれど、醤油の香りや出汁の旨みと並ぶと、
静かに、しかし確かな力を発揮する。
主役になりすぎない。
それでも、酒の輪郭は崩れない。
ここでは、
「時」と「酸」と「旨み」が、酒を支えている。

さて、本題。
よく冷えているうちは、
思いのほか、すっと喉を通る。
静かだ。
けれど、
グラスの中で温度がほどけるにつれて、
酒は少しずつ表情を変える。
熟成で蓄えた米の旨みが、
奥からじわりと、ふくよかに現れる。
同時に、酸がきりっと立つ。
輪郭を引き締めながら、
旨みを力強く前へ押し出す。
余韻は長くない。
けれど、きれいに、潔く切れる。
酸と旨みが、
霧の晴れた風景のように
静かに並んで立つ。
酸が、最後まで引かない。
この一杯は、
能登の日常に溶け込む“酸の骨格”として、
ここに記録しておく。
