一杯の記録|第74話 花巴 水酛×水酛 純米 無濾過生原酒(奈良・吉野)
一杯の酒から、その土地をたどる。
奈良・吉野。
山の気配が、深く残る土地だ。
美吉野醸造は、
古の技法を、いまに引き寄せる。
水から発酵を呼び覚ます、水酛。
そこに、もうひとつ。
水の代わりに、酒を重ねる。
一度醸した命を、再び仕込みへ。
酸も、甘みも、濁りも。
境界を引かない。
混ざり、ほどけ、
酒の輪郭は、ここで一度、崩れる。

さて、本題。
立ち香は、濃い。
乳漿を思わせる、複雑な予感。
口に含むと、とろりとした蜜。
舌に絡み、まとわりつく。
その官能を、
いくつもの酸が、一気に突き破る。
鋭いもの。
甘やかなもの。
底に沈むもの。
重なり合い、ほどけきらない。
整わない。整えない。
暴力的でいて、
どこまでも純粋な、生の律動。
濃い。けれど、引かない。
熱を帯びたまま、喉を伝い落ちる。
抗えない。
気づけば、もう一口、欲している。
この一杯は、
そんな“輪郭の外れ”として、ここに記録しておく。
