一杯の記録|第72話 光栄菊 Harujion 無濾過生原酒(佐賀・小城)
一杯の酒から、その土地をたどる。
佐賀・小城。
水はやわらかく、静かに流れている。
光栄菊酒造は、
一度途切れた時間を、
この地でつなぎ直した。
同じ場所へは戻らない。
新しい酒として、
かたちを変え続ける。
その根底には、
別の地で磨かれた、
揺るぎない技が通っている。
その上で、
酒の輪郭は、ゆるやかに揺れている。

さて、本題。
立ち香は、やや華やか。
かすかな柑橘の気配が、
静かに立つ。
口に含むと、
瑞々しい甘みが、
一瞬だけ広がる。
直後、
レモン水のような、
澄んだ酸がすっと現れる。
甘みと、酸。
重なるのではなく、
わずかに、ずれている。
追い越していくような、
その微かなずれが、心地よい。
余韻には、
レモンピールのような、
淡い苦み。
それぞれが位置を変えながら、
万華鏡のように、
移ろい、流れていく。
旨みは、どこまでも控えめだ。
だからこそ、驚くほど軽い。
水の清らかさが、
そのまま喉を抜けていく。
—— 揺れている。
この一杯は、
そんな“輪郭のゆらぎ”として、ここに記録しておく。
