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一杯の記録|第112話 御前酒 菩提もと にごり酒 雄町 生酒(岡山・勝山)

一杯の酒から、その土地をたどる。

視界が、白く染まる。
茜空の向こう側にあったのは、深い淵。

岡山、勝山。
草木染めの暖簾が揺れる。石畳の静寂。

そこには、室町の古層から続く、
菩提酛の吐息が眠っている。

菌たちの営みに身を委ね、刻を遡る。

さて、本題。

抜栓。
音もなく、濃密な白が揺れる。

香りは、妖艶。
熟した果実。乳酸の、微かな野性。

口に、含む。

瑞々しい。
クリーミーな白が、舌の上で解ける。

滲む。
爽やかな酸。穀物の、複雑な陰影。

ひらく。
雄町の、厚く、逞しい旨み。
けれど、決して重くはない。

芳醇な熱を帯びながら、
最後は心地よい苦みとともに、鮮やかに引く。

澄んでいる。
にごりの中に、確かな光。

文明の洗練を脱ぎ捨て、
ただ、根源の力に身を浸す。

——    還る。

この一杯は、
己の内の、野生を灯す火。
そんな一杯として、ここに記録しておく。

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