一杯の記録|第81話 豊香 純米 無濾過生原酒 おりがらみ 生一本(長野・岡谷)
一杯の酒から、その土地をたどる。
長野・岡谷。
諏訪湖のほとり、
水と風が、静かに行き交う場所。
冬になれば、
湖面は凍り、
御神渡が、音もなく現れる。
水がかたちを変え、神の道となるこの地で、
豊島屋の蔵は静かに時を刻んでいる。
ここの酒は、
どこか急がない。
強く主張はしないが、
その存在感には、確かな体温がある。
整えすぎないまま、
しなやかな色気を纏って、収まっていく。
この土地の厳しさと慈しみが、
その一滴を、そっと支えている。

さて、本題。
立ち香は、やわらかい。
摘みたての果実のような、
瑞々しく、甘やかな気配。
口に含むと、
おりがらみ特有の、
滑らかな「白」が舌を撫でる。
フレッシュな酸が、
弾けるように光を放ち、
そのすぐ後から、
密度の高い甘みが、
じわりと、
熱を伴って立ち上がる。
しっかりとしている。
けれど、野暮ではない。
甘美な潤いが、途切れることなく連なっていく。
すべてが、ひとつの物語のように繋がっている。
最後は、
未練を残さず、すっと引く。
余韻は、どこまでも軽やか。
—— うん、これはいい。
これは、潤いの連鎖。
この酒は、そんな一杯として記録しておく。
