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一杯の記録|第87話 笑四季 モンスーン 吟吹雪 生(滋賀・水口)

一杯の酒から、その土地をたどる。

滋賀・水口。
旧東海道の宿場町に、
異彩を放つ一軒の蔵がある。

三輪の静寂で整えられた意識に、
不意に、熱く、濃密な風が吹き込む。

笑四季酒造が放つモンスーン。
それは、日本酒という概念を、鮮やかに嘲笑う。

祈りのあとの、密やかな悦楽。

透明な世界は一変し、
境界線は、甘美な混沌の中に溶けていく。

留まることを拒み、
五感を、底なしの陶酔へと誘う。

さて、本題。

立ち香は、挑発的。
滴るような蜜の奥に、
貴醸酒特有の、ねっとりとした情欲が混じる。

口に含むと、
一瞬で、理性が揺らぐ。

とろりと、舌に絡みつく質感。
吟吹雪が秘めていた、
荒々しくも妖艶な素性。

それは、
聖域のあとの、甘い毒。

きゅっと、
追いかけてくる酸が、その重みを艶へと変える。

輪郭は曖昧になり、
現実と夢の境目が、ゆっくりと消えていく。

重層的な甘みの襞が、
身体の奥の、乾いた場所を潤していく。

とどまらない。
けれど、逃がさない。

最後は、
重厚な余韻だけを残して、夜に溶ける。


——惑う。

この一杯は、
境界を溶かす、密やかな陶酔。
そんな一杯として、ここに記録しておく。

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