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一杯の記録|第104話 雁木 槽出あらばしり 純米吟醸 無濾過生原酒(山口・岩国)

一杯の酒から、その土地をたどる。

水平線を越えた視線が、
ふたたび、己の足元へと戻ってくる。

山口、岩国。
錦川の豊かな水が、春の陽光を跳ね返す。

川と陸をつなぐ、階段状の桟橋「雁木」。
それは、水の奔放さと、人の営みが交差する境界。

静けさを揺らすように、
新しい季節のざわめきが立ち上がる。

八百新酒造。
飾ること、整えることを拒み、
純米無濾過という剥き出しの真実を追う蔵。

槽の口から、最初に滴り落ちる一滴。
重力に導かれ、自ら溢れ出したあらばしり。

それは、再生を告げる産声。

さて、本題。

香りが、ほどける。
青い林檎を剥いたときのような、
無垢で、少し青い熱が立ち上がる。

口に、含む。

弾ける。
舌の上で、生まれたての微細な泡が、
命の粒のように爆ぜる。

湧く。
内側から、瑞々しい力がせり上がる。

溢れる。
無濾過ゆえの濃厚な厚みが、あらばしりの荒々しさを連れて。

研磨されていない。
甘やかされていない。

そのままの重みで、押し寄せる。

若すぎる旨みを、甘みが包み、鮮烈な酸が引き締める。
その未完成な粗さこそが、この酒の、抗いようのない色気。

止まらない。
奔流となって、喉の奥へと駆け抜けていく。

やがて、
一閃の光を残して、消える。

空白だった場所に、確かな熱が宿る。
ここからまた、何かが始まる。

—— 弾ける。

この一杯は、産声の熱。
そんな一杯として、ここに記録しておく。

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