一杯の記録|第67話 雨垂れ石を穿つ 十水仕込 特別純米生酒(滋賀・高島)
一杯の酒から、その土地をたどる。
滋賀・高島。
琵琶湖の西岸、比良の山々に抱かれた町だ。
萩乃露 を醸す
福井弥平商店 は、
二百七十余年、この湖のほとりで歩んできた。
選んだのは、十水(とみず)。
米と同量の水で仕込む、
江戸の理に倣った造りだ。
水を絞ることで、
米の力を極限まで引き出す。
軽さを狙わない。
香りで誘わない。
一滴に、時間を閉じ込める。
その覚悟が、
石を穿つ雨垂れのように
静かに、深く、酒へ刻まれていく。

さて、本題。
立ち香は、穏やか。
炊きたての米のような、やわらかな気配。
口に含むと、
とろりと濃密だ。
十水仕込みならではの、
凝縮された旨みが、舌の上に満ちていく。
けれど、重くはない。
生酒の瑞々しさが、
その密度を軽やかにほどいていく。
甘みに逃げず、
旨みが中心にある。
濃い。
けれど、流れは清らかだ。
相反するはずの
「厚み」と「透明感」。
その二つが、
ひとつの酒のなかで、
完璧な均衡を保っている。
——深い。
この一杯は、
そんな“旨みの密度”として、ここに記録しておく。
