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一杯の記録|第66話 豊國 純米酒(福島・会津坂下)

一杯の酒から、その土地をたどる。

福島・会津坂下。
盆地の西、かつての宿場町だ。

田が広がり、
遠くに重なる山の稜線。

この町には、
古くから酒を醸す蔵が
いくつも軒を連ねている。

豊國を醸す豊国酒造も、
その一つだ。

米の力を、
まっすぐ酒に映す。

余計な飾りはいらない。

会津の静かな時間が、
そのまま一杯のなかに、
重層的な旨みとして横たわっている。

さて、本題。

立ち香は、穏やか。
無理に語りかけてはこない。

口に含むと、
チェロの低音のように、
重心の低い、豊かな響きが広がる。

米の滋味が、
じんわりと満ちていく。

それを支えるのは、
しっかりとした酸の骨格だ。

甘みに寄りかからない。
けれど、決して痩せない。

落ち着いた旨みが、
深い足跡を残すように、
ゆっくりと舌の上を進んでいく。

ふと思いつき、
少しだけ温めてみる。

すると、
景色が反転した。

低く強かった響きが、
驚くほどやわらかく、
ほどけるような優しさで包み込んでくる。

余韻は長い。
どこか懐かしい、
純米らしい穀物の影。

——じんわりと、沁みる。

派手さはない。
けれど、揺るぎない。

この一杯は、
そんな“低く強い酒”として、ここに記録しておく。

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