一杯の記録|第110話 寒菊 愛山50 -Red Diamond-(千葉・松尾)
一杯の酒から、その土地をたどる。
ほどけたままの心に、
すっと、一本の線が走る。
風は乾き、けれど揺らがない。
千葉、松尾。
九十九里の海風が、まっすぐに抜けていく。
その流れの中で、一点の曇りも許さない意志に出会う。
寒菊銘醸。
温度は揺らがない。時間は、ぶれない。
偶然を排除し、揺らぎを、断つ。
すべては、宝石の一瞥にも似た、あの一瞬のために。

さて、本題。
香りが、満ちる。
完熟した果実。甘美な光を帯びた、濃密な気配。
口に、含む。
走る。
透明な液体が、迷いなく広がる。
結ぶ。
甘み、酸、旨みが、一点の濁りもなく重なり合う。
愛山の気品が、瑞々しい結晶となって立ち上がる。
華やかだ。けれど、浮つかない。
朝露の純度と、芯のある輝き。
凍てつくような規律のなかで、静かに火を灯した情熱。
やがて、すっと引く。
残るのは、一筋の光。
過剰なものは、何もない。
ただ、結ばれている。
—— 結ぶ。
この一杯は、
混じりけのない輝きで、明日を照らすための一滴。
そんな一杯として、ここに記録しておく。
