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一杯の記録|第88話 不老泉 山廃純米吟醸 備前雄町 無濾過生原酒(滋賀・高島)

一杯の酒から、その土地をたどる。

滋賀・高島。
蔵の奥で時を吸い込んだ木槽が、
静かに、太い呼吸を繰り返す。

モンスーンの毒に、心地よく惑わされたあとのことだ。

ふらりと戻ってきたのは、
母なる湖のほとり、揺るぎない安息の地。

上原酒造の醸す不老泉。
それは、伝統の山廃が辿り着いた、
驚くほどに瑞々しい、命の横顔。

さて、本題。

立ち香は、力強く、清らか。
山廃の先入観を覆す、弾けるような果実の知性。

口に含むと、
滴るような、円みのある甘みが、
圧倒的な抱擁感とともに、喉を潤す。

備前雄町の野性味溢れる骨格。
それを、山廃の時間が、
しなやかで、潤いに満ちた質感へと変えている。

彷徨った果てに辿り着く、温かな掌。

きゅっと、
深いコクと、幅のある旨みが、
身体の隅々にまで生命力を吹き込んでいく。

曖昧だった境界線が、
この一杯の熱量によって、確かな現実へと引き戻される。

旨みは、地層のように重層的。
濃醇な記憶を、強く、長く、余韻として残しながら、
最後は、驚くほど潔く、サッと切れていく。

とどまらない。
けれど、深く、刻まれる。

最後は、
雪解け水が岩を洗うような、清冽な静寂。

——還る。

すべてを包み込む、慈愛の抱擁。

そんな一杯として、ここに記録しておく。

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