一杯の記録|第100話 鍋島 大吟醸 兵庫県特A地区産山田錦(佐賀・鹿島)
一杯の酒から、その土地をたどる。
節目を数えるよりも、
ただ、この夜にふさわしい一杯を。
気づけば、百話。
特別な言葉を飾るつもりはない。
無意識に手が伸びた。ただ、それだけのこと。
佐賀、鹿島、富久千代酒造。
洗練をまとう、その凛とした佇まい。
私が理想とする、一つの在りよう。
特A地区の山田錦。
贅沢に、慈しむように、磨き抜く。
職人の矜持が、日常の延長にある至福を醸す。

さて、本題。
香りが、静かに立ち上がる。
気品ある華やかさ。押しつけがましくない。
幾度も巡り合った、信頼の香り。
口に含む。
もはや、語るべき言葉は残らない。
それは、円熟。
磨き抜かれた透明感が、一滴の濁りもなく広がる。
甘み、酸、微かな苦み。
すべてが完璧な均衡を保ち、優雅な丸い円を描く。
多くの酒と出逢い、言葉を紡いできた。
果てに辿り着いたのは、
ただ美味しい、という極めてシンプルな幸福。
一日の終わりに、この一杯があること。
その積み重ねが、いつしか私の歴史。
やがて、
美しい余韻だけを空に預け、深く、溶けていく。
あとに残るのは、穏やかな満足感。
百は、ただの通過点。
明日もまた、新しい一杯を書き留める。
—— 満つ。
この一杯は、
日常を至福に変える、究極の普遍。
そんな一杯として、ここに記録しておく。
