一杯の記録|第77話 風の森 秋津穂657 純米生酒(奈良・御所)
一杯の酒から、その土地をたどる。
奈良・御所。
葛城山の麓、風が抜ける土地。
「風の森」を醸す油長酒造は、
米を磨くことよりも、
米に宿る熱を、そのまま瓶に封じ込める。
米を削りきらない、六十五パーセント。
削ぎ落とさないことで残る、
土地の、肉厚な記憶。
そこには、
整えられた静寂ではなく、
たしかな鼓動がある。

さて、本題。
注いだ瞬間、
グラスの内側に、小さな呼吸が宿る。
微細な気泡。
それは、発酵という名の、生きている証。
立ち香は、瑞々しい。
摘みたての果実のような、青い誘い。
口に含むと、
チリリと、舌が震える。
輪郭は、留まらない。
弾け、躍動し、
常にそのかたちを更新し続ける。
やわらかな甘みの奥に、
わずかな苦み。
それは、若草の露のような、
剥き出しの生命の味。
仙禽の「静」に対し、
こちらは、圧倒的な「動」。
喉を伝い落ちる瞬間まで、
酒は、呼吸をやめない。
—— 一瞬、昂る。
これは、躍動する輪郭。
そんな一杯として記録しておく。
