一杯の記録|第103話 酔鯨 特別純米酒(高知・長浜)
一杯の酒から、その土地をたどる。
土佐の陽光が、網膜を刺す。
沈殿していた思考を、
鏡川の奔流が、強引に洗い流していく。
山あいの静寂を、断つ。
視界は、一気に水平線へと突き抜ける。
高知、長浜。
酔鯨の名が背負う、豪放さと、
その裏側に潜む、驚くほどの潔癖。

さて、本題。
香りは、語らない。
ただ、そこに冷たい刃があることを予感させる。
口に、含む。
断つ。
一瞬で、舌の上のノイズを削ぎ落とす。
奔るのは、酸。
一切の躊躇なく、喉元を一直線に駆け抜けるスピード感。
旨みは、その背後で、
強固な石垣のように「骨格」を支えている。
膨らみも、甘えもない。
あるのは、徹底してフラットな「鏡板」の美学。
すべてを受け流し、無に帰す。
土佐の海を平然といなす、寡黙な色気。
潔い。
そして、どこまでも強い。
飲み干せば、
液体は、煙のように消える。
残るのは、
洗われたばかりの、まっさらな意識。
身体を、乾いた風が通り抜ける。
—— 抜ける。
この一杯は、
過去を鮮やかに断ち切り、
ふたたび水平線を見つめるための、峻烈な通過点。
そんな一杯として、ここに記録しておく。
