一杯の記録|第115話 千代むすび 純米酒 無濾過原酒生(鳥取・境港)
一杯の酒から、その土地をたどる。
境線に揺られ、終着を指す。
窓外をよぎる妖怪の名が、
現実を緩やかに侵してゆく。
その高揚を抜け、
潮風の吹く蔵へと辿り着く。
鳥取、境港。
千代をゆく、結びの調べ。

さて、本題。
抜栓。
甘き香が、淡く、されど確かに鼻腔をなでる。
注ぐ。
無濾過とは思えぬ、冴えわたる透明。
口に、含む。
躍動。
生原酒が放つ、若き瑞々しさ。
満ちる。
深みが、満ちる。
その奥で、小さな光が爆ぜる。
日本海が秘める、静かで湿り気を帯びた陽光。
抜ける。
力強さを湛えながらも、
最後は月光のように、ただ清らかに、消える。
凪いでいる。
海風の記憶が、優しき余韻に解けてゆく。
境の風土が、静かな輪郭を結んでいく。
その懐の深さに、身を浸す。
—— 結。
この一杯は、
巡る時を、静かに繋ぎ止めるための音。
そんな一杯として、ここに記録しておく。
