一杯の記録|第70話 観音下 無濾過原酒 2019 Vintage(石川・白山)
一杯の酒から、その土地をたどる。
石川・白山。
山の気配が、濃く漂う土地だ。
観音下。
かながそ、と読む。
醸すのは、農口尚彦研究所。
水は、静かだ。
冷たく、どこまでも澄んでいる。
この場所で、
酒は、ただ、水とともにあろうとする。
余計な手は加えない。
米も、削りすぎない。
一滴に、
土地の呼吸を閉じ込める。

さて、本題。
立ち香は、穏やか。
やわらかな蜜を含んだ、静かな香りだ。
口に含むと、
とろりとした甘みが広がる。
黄金色の飴を思わせる、
熟成の気配。
その奥に、
力強いアルコールの熱が潜んでいる。
強い。
けれど、荒くはない。
熱は、内側へ向かって、
ゆっくりと、深く、浸透していく。
水は、きれいだ。
それだけは、はっきりと伝わってくる。
完璧に、整っている。
けれど、
どこか、少しだけ遠い。
美味いか、美味くないか。
そんな問いさえ、意味をなさない。
圧倒的な、ひとつの意志。
その頂が、ここにある。
余韻は、長い。
熱の残響を連れたまま、
静寂の中へ続いていく。
そして、余白。
この一杯は、
そんな“ひとつの到達”として、ここに記録しておく。
