【知識ゼロ会社員、宇宙に賭ける #17】スマホが宇宙と繋がる日、データセンターが宇宙に浮かぶ日
■通信の「次」を、SpaceXはもう仕掛けている
これまでStarlinkの「通信」という側面を中心に見てきました。だかしかし、SpaceXはすでに、その通信の「次」の段階に足を踏み入れています。今回は、まだあまり注目されていない、この2つの動きを見ていきます。
■Starlink Direct to Cell:もうスマホ1台で宇宙と繋がる
「Direct to Cell」という技術、正直まだ知らない方も多いかもしれません。だかしかし、これはすでに、僕らの生活の中で静かに始まっているサービスです。
従来の衛星通信は、専用の大型端末やパラボラアンテナが必要でした。だかしかしDirect to Cellは、今使っている普通のスマートフォンが、そのまま衛星と直接繋がります。2026年初頭時点で、SpaceXはすでに650機以上の対応衛星を軌道上に展開していて、これはカバレッジ面積において地球上最大規模の4Gネットワークになっています。世界22カ国で稼働し、4億人以上がすでにアクセス可能な状態にあり、最終的には17億人以上への提供を見込んでいます。
日本でも、KDDIが2025年4月に先行して開始し、ソフトバンクが2026年4月10日、ドコモが2026年4月27日にサービスを開始しました。今では大手3キャリアすべてが対応しています。圏外の山中でスマホの表示が「SpaceX」に変わり、SMSが届く。専用の衛星電話を持ち歩く必要がなくなった、というのが最大のポイントです。
■これは途上国にとって何を意味するか
このDirect to Cellが本当に意味を持つのは、実は日本のような通信インフラが整った国よりも、通信インフラがまだ行き届いていない地域なんですよね。
これまで、電波塔一つ建てるのにも莫大なコストがかかっていた地域で、既存のスマートフォンさえあれば、いきなり通信が繋がるようになる。基地局を一つも建てずに、いきなり最新の通信網が届く。これは、固定電話の時代を飛び越えて携帯電話が一気に普及した、かつての新興国と同じような「インフラのジャンプ」が、今度は通信そのもので起きようとしている、ということだと僕は理解しています。
■軌道上データセンター構想:AI1というモンスター衛星
だかしかし、SpaceXが仕掛けているのは、通信の話だけではありません。以前の記事でも触れた「軌道上データセンター」構想、その最初の機体「AI1」の詳細設計が、2026年6月に公開されました。
翼を広げた状態での全幅は約70メートル。ボーイング747(約68メートル)よりも大きい巨体です。高度およそ600kmの軌道を飛びながら、平均120kW、ピーク時150kWという計算処理能力を発揮する構想で、マスク氏はこれを「宇宙に浮かぶ1ラック分のコンピューター」と表現しています。発熱を逃がすため、110平方メートルの液体ラジエーターを展開する仕組みも備えています。
面白いのは、マスク氏自身が「特別な魔法のような新技術はいらない」と語っていることです。多くの部品は、すでにStarlink V3衛星で実証済みの技術を流用しているそうです。この衛星を量産するため、テキサス州バストロップには「Gigasat」という、約100万平方メートル(東京ドーム約23個分)の巨大工場も建設中で、2027年末までに稼働を目指し、年間1,000基以上の生産を見込んでいます。SpaceXは最終的に、こうした衛星を最大100万基打ち上げる計画をFCCに申請しています。
■だかしかし、懐疑的な声もある
だかしかし、これだけ壮大な計画には、当然懐疑的な見方もあります。海外メディアの報道によれば、SpaceX自身がIPO時の目論見書(S-1)の中で、軌道上のAIデータセンターが実現可能でない可能性がある、とリスクとして明記しているとされています。
宇宙空間では、地球の影に入る時間帯があるため、太陽光発電が常にできるわけではありません。得られた電力もすべてを計算処理に使えるわけではなく、姿勢制御や通信、軌道維持のための推進系にも配分する必要があります。さらに、衛星の数が増えれば、以前の記事で扱った宇宙デブリの衝突リスクも、当然その分高まっていきます。コスト、放射線、通信の遅延。専門家の間では、これらの壁を本当に越えられるのか、懐疑的な声も根強くあります。
■まとめ:まだ織り込まれていない成長余地
スマホがそのまま宇宙と繋がるDirect to Cell。そして、宇宙空間にコンピューターを浮かべる軌道上データセンター構想。どちらも、まだ多くの人が知らない、あるいは懐疑的に見ている段階の話です。
だかしかし、こういう「まだ広く知られていない」「まだ懐疑的に見られている」段階にこそ、市場にまだ織り込まれていない成長余地があるのかもしれません。実現するかどうかは、これからの技術と時間が証明していくことになります。引き続き、この動きを追いかけていきたいと思います。
※本記事は筆者個人の見解・体験に基づく内容であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資は必ずご自身の判断と責任で行ってください。
