普通を、少しだけずらす。
ブラックニッカで作ったハイボールに、
余市を少し浮かべる。
口に近づけると、余市のピートがふわっと立ち上がる。
居酒屋のハイボールに飲み慣れている人ほど、一口飲んだときに
「あれ、なんか違うな」と感じていただけると思います。

バーなら、お酒をグラスの表面に浮かべる「フロート」という技法は珍しくありません。
けれど、そこでブラックニッカが選ばれることはあまりないし、余市は余市として、その個性を味わうのが王道です。
一方で、居酒屋ならブラックニッカはよく見かけます。でも、そこにわざわざ余市を一垂らしするような、そんな「遊び」はあまりしません。
バーは、酒の違いを「知る」場所であり、居酒屋は、その違いやコストを省いて「分かりやすさ」を提供してくれる場所。
どちらが良い悪いではなく、どちらも正しい。僕にとっても、その両方が人生になくてはならない大切な居場所です。
でも「酒場ダイガク」は、そのどちらでもなくて、日常の中にある当たり前の一杯に、ほんの少しだけ手を入れる。
そんな「間(あわい)」のような酒場でありたいと思っています。
メニューに載せているお酒は、だいたい同じ考えで作っています。
例えば、レモンサワー。
オーセンティックなバーでレモンサワーを見かけることはあまりなく、(僕にとっては、ジンフィズがそれに近い感覚です)
かといって、居酒屋のそれは、時に甘すぎたり、あるいはシンプルすぎたりすることもあります。
その間で、少しだけ手を入れる。
瀬戸内レモンの皮を剥いて、
ジンに一ヶ月ほど漬け込み、そこにレモンシロップを合わせ、フィーバーツリーのトニックで仕上げます。
工程だけを見れば、少し手がかかっています。
けれど、それは「すごいお酒」を作りたいわけではなく、あくまで「普通の酒」の輪郭を、ほんの少しだけ、ずらすための作業です。
そして僕は、その「違い」について、お店ではあまり詳しく語らないようにしています。(もちろん聞かれたら、なんでもお答えします)
飲んだときに
「いつものと、なんか少しだけ違うな」と感じてもらえる。
その一瞬のために、
あまり強くしない。
語りすぎない。
完成させすぎない。
そんな引き算を大切にしています。
飲んだ人の中に、「なんか違うな」という、よい意味の違和感が、少しだけ残る。
でもその正体が何なのかは、分からなくてもいいのだと思っています。
なぜなら、
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